音と光~タリア劇場『ロミオとジュリエット』(配信)

 ハンブルクのタリア劇場『ロミオとジュリエット』を見た。ドイツ語に英語字幕がつくもので、ジュリエットの名前はドイツ語式に「ユリア」となっているので、タイトルとしては『ロミオとユリア』のほうがいいのかもしれない。演出はジェット・シュテッケル、2014年に上演されたものである。

www.thalia-theater.de

 大陸風のシャープでエネルギッシュな演出で、舞台上にピアノがあり、生演奏の現代的な音楽がたくさん使われている。台本はけっこう現代ドイツにあわせて変更もある感じだ。セットは中央が回転するようになっている平たい台で、家具などはほぼない。ベッドとかテーブルとかも出てこないとてもシンプルなセッティングである。暴力描写もシンプルかつ象徴的で、血糊などは使われていない。光の演出に特徴があり、上から豆電球が大量についた電線がたくさんぶらさがってカーテンのようになっていて、明るい場面ではこれが舞台をかなり強い光で照らすようになっている。ユリア(Birte Schnöink)がロミオ(Mirco Kreibich)との結婚直後に部屋で物思いにふける場面では照明を使って空から星が降るような効果を出している。ユリアが仮死状態になる薬をのむところではスカートが中から光るとかいう仕掛けもある。

 

 このプロダクションではとにかく若者たちが若々しく、情緒不安定で情熱的だ。現代的な服装で振る舞いもそこらの若者みたいである。ユリアはピンクの髪の毛の少女だし、ロミオもギターが弾けて、バンドとかやってそうな少年だ。アンガーマネジメントの問題を抱えているらしいティボルト(Rafael Stachowiak)や、キャピュレット夫人に誘惑されるパリス(Oliver Mallison)、「リア充爆発しろ」みたいな感じでロミオが遊んでくれなくなるとふてくされるマキューシオ(Julian Greis)とベンヴォーリオ(Pascal Houdus)など、モンタギューとキャピュレットの争いに引き裂かれたヴェローナの街が青少年の心情にかなりよろしくない影響を及ぼしているように見える。そんな中で争いを超えて愛し合えるロミオとユリアはまだ元気で幸せと言えるのだが、そんな2人も不幸に襲われると泣いたりわめいたり思いっきり不安定になる。

 

 いろいろ実験的なところはあり、概念のロミオとか概念のユリアみたいな人たちがたくさん出てきてひとりのロミオやユリアの心情を表現するとか、最後にユリアの自殺をふつうに見せないとか、あまり見かけない演出もある。とはいえ基本的にはロミオとユリアを中心に若者同士の心情をしっかり描いている正攻法の演出だと思う。結婚式の後にロミオとユリアがデートするところなどはキラキラした恋心が微笑ましく生き生きと描かれている。2人だけに照明をあてて周りを真っ暗にするなどという演出もあり、過酷な状況で愛し合うロミオとユリアの情熱が際立っている。冒頭でベンヴォーリオがマキューシオを心配するところなども細やかだ。また、パリスが単なる馬鹿な求婚者ではなく、ユリアを早急に結婚しようとさせるキャピュレットに対してちょっと不安そうにふるまうなど、陰影のある描き方になっているのもよかった。