箱入りタイタス~ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー『タイタス・アンドロニカス』(配信、少しネタバレあり)

 Marquee TV(1ヶ月フリートライアル中)の配信でロイヤル・シェイクスピア・カンパニー『タイタス・アンドロニカス』を見た。2017年の舞台を撮影したものである。

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 完全に現代的な政治劇として上演する演出だ。ローマの広場には演壇があるし、みんなTシャツとか軍服とか、現代風の衣装を着ている。配達の人はウーバーイーツみたいな格好でやってくるし、タモーラの息子たちが変装するところでは頭からストッキングをかぶっている。最後の人肉食饗宴の場面も、わりと時代がかった長いテーブルを出すような演出も多いと思うのだが、これは最近のレストランみたいな四角くてこじんまりしたテーブルを使い、正装した人々のところに一流シェフよろしく大げさに料理人っぽい衣装を着込んだタイタス(デイヴィッド・トラウトン)とウェイトレスの格好のラヴィニア(ハナ・モリシュ)が(いわくつきの)料理を運んでくる。 この場面の描写はけっこう露骨で、例のパイの中から人の顔が出てくるとかいうグロい描写もある。最後の皇帝暗殺クーデター完遂後には報道の取材も来る。

 全体的には死んだ人たちが亡霊のようになって再登場するなど、暴力の傷跡がなかなか消えないことを示唆するようなプロダクションだ。最後にちょっとびっくりするような幽霊演出もある。笑いも暴力も多いが、いくつか面白いポイントがあった。奈落の使い方に特徴があり、前半の落とし穴のところは、本当に突然タイタスの息子たちが奈落に落っこちていなくなるのでちょっとびっくりする。途中でタイタスたちが食事するところも、食卓が奈落で下がってそのまま皇帝のお屋敷のプールになる。最後も、血まみれの食卓と一緒にアーロンが奈落に下がって退場する。

 また、面白いところとしては、箱入りタイタスの場面がある。タモーラが復讐の女神に扮してタイタスを訪れるところでは、最初はタイタスが段ボール箱をかぶっていて顔を出さない。箱をかぶっているせいでタイタスの表情が見えないのだが、この行動は狂気を感じさせる一方、おそらくけっこう考えて箱の中から様子をうかかっているのだろうなと想像させる演出で、なかなかいいと思った。 

 なお、このプロダクションは撮り方のほうもわりと工夫していると思った。全体的に舞台の様子は比較的わかりやすいが、たまにおっと思うようなところがある。タモーラのバカ息子たちが殺されるところでは、上からぶら下げた紐につながれた息子たちが、吊り下げられた状態でどんどん上にあがっていくところをかなり真下に近いところから撮るという場面があり、これはなかなかふつうの劇場では見えないアングルだ。