普通のロミジュリとだいぶ違う~スウェーデン王立バレエ『ジュリエットとロミオ』(配信、ネタバレあり)

 Marquee TVのフリートライアルでスウェーデン王立バレエ『ジュリエットとロミオ』を見た。マツ・エクの振付で、2013年の上演を撮影したものである。

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 タイトルからもわかるようにいわゆるふつうの『ロミオとジュリエット』のバレエと全然違い、プロコフィエフの音楽を一切使っていない。主にチャイコフスキーの有名どころを組み合わせている。話もわりとばっさりカットや変更を加えており、ローレンス修道士に結婚させてもらうところはない。全体的に黒っぽい現代風なセットで、振付はかなりモダンである。セグウェイがたくさん使われ、振付に組み込まれているあたりは面白い。

 あまり色味がなく殺風景なセットや衣装も、時々ぎくしゃくした動きが入るダンスも、抑圧的で暴力的な社会の中で引き裂かれる恋人たちの悲運を強調するものになっている。ローレンス修道士をカットしたせいで、ほぼ良識ある大人が出てこない。ロミオとジュリエットの細やかな感情を表現したダンスとかはいいのだが、ただ、チャイコフスキーのすごく盛り上がるロマンティックな音楽と、こういうあまり滑らかではない動きをわざと入れた鋭いダンスがちゃんとあっているのだろうか…と疑問に思うところもいくつかあった。たぶんもともと物語を作ることを意図していない音楽を組み合わせてお話を作っているということもあるのだろうが、なんか音とダンスと話とビジュアルスタイルが有機的に接続されていないみたいに思えるところがたまにある。

 私がかなり気に入らなかったのは、ジュリエットが強制結婚に抗ったせいでキャピュレット家の父親に殺されるというふうにもとの筋を大きく変更しているところだ。原作のジュリエットは、強制結婚の瀬戸際で窮地に陥っても生き延びるべくいろいろ自分で善後策を練る強い性格だが、このバレエの展開だと、出てきて恋をしてかわいそうな形で殺されるだけで、あまり主体性というものがなく、ひたすら社会の犠牲者になるだけのキャラクターになってしまう。ここは翻案としては単純化しすぎで、面白くなくなっていると思う。