歌がとても良かったが、少し撮り方が古いかも~メトロポリタンオペラ『アイーダ』(配信)

 メトロポリタンオペラ『アイーダ』を配信で見た。これはふだん配信しているMETライブビューイングシリーズではなく1985年のものである。有名な歌手だったレオンティン・プライスがメトを引退する際の有名な公演らしい。

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 お話は古代のエジプトが舞台で、身元を隠してエジプトの宮廷に奴隷として仕えているアイーダ(レオンティン・プライス)とエジプトの将軍ラダメス(ジェイムズ・マクラッケン)の悲恋を描くものである。ラダメスはエジプト王女アムネリス(フィオレンツァ・コッソット)からも愛されている。三角関係にエジプトとエチオピアの戦争をめぐる宮廷政治が絡んだ大がかりな物語だ。

 私は『アイーダ』を見たことがなく、今回初めてちゃんと最初から最後まで見たのだが、思ったよりアムネリスの役が大きいと思った。可愛らしく清純なヒロインの恋敵という憎まれ役みたいな役どころだが、わりと陰影のあるキャラクターだ。最初は王女としてのプライドを発揮してアイーダと恋敵をめぐって張り合う気位の高い女性として出てくるのだが、だんだんいろいろな感情を表現するようになり、奥行きのある人物になっていく。また、アイーダ役のレオンティン・プライスの歌が大変魅力的で、声が美しく、ドラマティックである。下手するとアイーダは弱々しくて面白みのない人物になりそうな気がするが、歌のおかげできちんとキャラクターが立っているように見える。

 30年以上前の映像なので画質はあまりよくなく、また撮り方も最近のMETライブビューイングに比べると洗練されていないように思った。最後の地下牢の場面は、まあ場所柄からして暗いのはしょうがないのだが、今ならもうちょっと輪郭などがくっきり映るよう技術的に工夫できるのじゃないかなと思った。セットや演出もちょっと古いような気がする…というか、衣装が動きにくいのか、主要人物の動きがわりと少ないように思った。一方で今からするとちょっとオリエンタリズム的なところが鼻につく演出もある。