綺麗なセットに楽しい笑い~『ウィンダミア卿夫人の扇』(配信、ネタバレあり)

 Marquee TVで『ウィンダミア卿夫人の扇』を見た。2018年に上演されたもので、演出家はなんとあのキャシー・バークである。台本は読んだことあるし映画では何度も見たことあるのだが、舞台上演は映像も見たことがなく、今回初めて見た。

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 若くてうぶなヒロインのレディ・ウィンダミアが、夫のウィンダミア卿が年上の過去ある女アーリン夫人と不倫しているのではと疑うが、実は…というお話である。大きなネタバレになるのだが、実はアーリン夫人はレディ・ウィンダミアの死んだことになっていたはずの母親で、娘を捨てて愛人と駆け落ちした後、身元を隠して戻ってきたのであった。ところが誤解したレディ・ウィンダミアは友人のダーリントン卿と駆け落ちしそうになり、それを知ったアーリン夫人は娘に自分の過ちを繰り返させてはいけないと全力で阻止しようとする。

 

 扇がモチーフのセットがとても綺麗で、場面転換の時に降りてくる前面の幕には大きな扇が描かれ、さらにその中にはいわゆる「扇の言語」が図示されている。「扇の言語」というのは、扇と仕草を組み合わせて声を出さずに簡単なメッセージを他人に伝えるということができるというものだ。ウィンダミアの家のセットも扇がモチーフで、奥に扇の形の大きな窓があり、全体的にかなり光が入る明るい舞台になっている。一方、ダーリントン卿の家はもうちょっと暗くてごちゃっとしており、対比がある。

 

 わりとオーソドックスであまり尖ったところとか実験的なところはないのだが、コメディアンのキャシー・バークらしく笑いのツボをおさえた演出だ。ジョークはしっかり笑わせるし、他にもちょっと大げさな仕草で面白おかしくしているところがたくさんある。ダーリントン卿の家で男たちがケンカを始め、その場をなんとかしようとアーリン夫人が現れるところなどはドタバタコメディみたいでかなり笑える。一方で世慣れて成熟した女性であるアーリン夫人(サマンサ・スピロ)がレディ・ウィンダミア(グレイス・モロニー)が寄せる母の情などはしっかり描かれており、メリハリのあるプロダクションになっている。