女性が演じる颯爽としたロメオ~チューリッヒ歌劇場『カプレーティとモンテッキ』(配信)

  Maquee TVでベリーニ『カプレーティとモンテッキ』を見た。クリストフ・ロイ演出で、チューリッヒ歌劇場で2015年に収録された上演である。

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 このオペラはシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』とは非常に話が違っており、ルイージ・シェヴォラの戯曲が原作らしい。カプレーティとモンテッキの対立と、ロメオとジュリエッタの悲恋だけが共通している。

 回転させられるセットを使った非常に現代的な演出の舞台である。セットは完全に今の時代の家屋だし、カプレーティとモンテッキ両家は黒っぽいスーツを着こなしており、現代のエリートギャングか何かみたいである。序曲のところで、どうやら子供だった時のジュリエッタらしい少女がステージが回転するとともに成長し、部屋が死体だらけになっていくという大変不吉なプロローグがある。全体におそらく死を象徴しているのではと思われる黙役がおり、ロメオとジュリエットを見守っている。

 このオペラの特徴はロメオ役を女性歌手が演じるということだそうで、このプロダクションでロメオを歌っているジョイス・ディドナートは歌も迫力があり、感情表現が豊かで演技もうまく、颯爽とした大変魅力的なロメオである。ジュリエッタ役のオルガ・クルチンスカはとても可愛らしいし、ジュリエッタの婚約者であるテバルド(バンジャマン・ベルネイム)は本気でジュリエッタに夢中らしく、恋心がかなわないかわいそうな若者という点ではロメオと似たもの同士に見える。

 ただ、ひとつ気になったのは、この台本はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に比べると、ジュリエッタの主体性が薄いように見えるということだ。シェイクスピア劇のジュリエットは若いがかなり積極的な女性で、自分からロミオに求婚するし、強制結婚から逃げるため自分でいろいろ手立てを講じようとする。一方でこのオペラのジュリエッタは、ロメオから駆け落ちを提案されても断り、結局事態が悪化してからロレンゾのすすめで仮死状態になる薬を使うと決めるという役どころで、自分から積極的に事態を収拾しようとする見せ場がない。恋心や悩みを吐露する見せ場はあるのだが、積極的な行動をする見せ場がなく、この点ではちょっと『ベアトリスとベネディクト』に似たような傾向の翻案なのではと思った。