いいところはたくさんあるが、少し音楽が一本調子~オペラ版『ブロークバック・マウンテン』(配信)

 Marquee TVでチャールズ・ウォリネンによるオペラ『ブロークバック・マウンテン』を見た。小説の原作者であるアニー・プルーがリブレットを担当し、2014年にイヴォ・ヴァン・ホーヴェの演出でスペインで初演されたものである。これは初演の映像である。

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 イヴォ・ヴァン・ホーヴェらしいセットや美術で、雄大な風景を投影して動かして見せるブロークバック・マウンテンと、所狭しと家具が置かれたわりとリアルな家庭の風景が対比される。最後はセットがほぼ何もなくなって、ただの黒い箱にイニスが立っているというような感じになる。音楽は完全に現代音楽っぽい無調のものである。

 原作者が台本を書いているということで、映画よりも原作の短編小説をそのままオペラ化したものになっている。イニス(ダニエル・オカリッチ)とジャック(トム・ランドル)のロマンスを描くというのは映画と同じだが、映画よりもだいぶ女性のキャラクターが大きい。結婚前のアルマ(ヘザー・バック)が、牧場での暮らしでは女性は疲れる仕事を押しつけられるばかりでいいところがないと歌う場面があり、これが牧場の夢をあきらめられないイニスとアルマの離婚の伏線になる。ラリーン(ハンナ・エステル・ミニュティロ)とお父さんの関係などもわりと丁寧に描かれている。

 台本はけっこうよく書けているし、歌手の演技もいいと思うのだが、音楽ががわりと一本調子…というか、ただしゃべっているのに伴奏がついているような感じで、さらに明るい場面でも妙に不協和音がまじって最初から不穏な感じがあるので、ちょっとメリハリがないと思う。『ブロークバック・マウンテン』は泥沼の不倫ロマンスのお話で、実は非常にオペラに適した題材ではないかと思うので、発想じたいは正しいのだと思うのだが、明るいところは明るく、暗いところは暗くなるようにして、もうちょっと盛り上げるところでは盛り上げたほうがいいのではと思った。最後にイニスがジャックのシャツを宙に浮かせて語りかける独白の歌などはわりと心情をきちんと表現したものになっており、見ていて面白いところはたくさんあるのだが、これならストレートプレイでもいいのでは…という気がしてしまう。