どうしてもナショナルシアターと比べてしまう…ブラックアイドシアター『ジェーン・エア』(配信)

 ブラックアイドシアター『ジェーン・エア』を配信で見た。ブラックアイドシアターはバークシャのブラックネルにある劇場である。ニック・レインがシャーロット・ブロンテの原作を脚色したもので、エイドリアン・マクドゥーガル演出である。2019年から2020年初頭にかけて上演されたプロダクションである。

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 役者陣はとてもよい。ジェーン(ケルシー・ショート)は生き生きしたヒロインだし、ロチェスター(ベン・ウォリック)が傲慢とはいえそこまで近づきがたくなく、やや明るめに作ってある感じなのは、話が不必要に暗く大仰になるのを防いでいて良いと思う。大変ちゃんとした上演で、つまらないとかいうことは全くない。

 しかしながら、問題はどうしても2017年に上演され、最近無料で配信されたサリー・クックソン脚色によるナショナル・シアターのものと比べてしまうということだ。ナショナル・シアターはほとんど木枠だけみたいなセットで音楽をふんだんに使う大胆でシンプルな上演だったのだが、このプロダクションはヴィジュアルについてはかなりそこから影響を受けていると思われる一方でだいぶ視覚的にも音楽的にも大人しい。ナショナルほどシンプルではなく、ちょっとヴィクトリア朝風でいろいろ道具類もある舞台ではあるのだが、やっぱり木枠で家を表現するみたいなセットが使われている。さらに音楽についてはナショナルのほうがかなり大胆な使い方をしていたので、少々こちらは物足りなく見えてしまう。台詞と音楽が少しかぶってやや聞き取りづらいと思われるところもあったのだが、ただこれは録音の問題かもしれない(ナショナル・シアターほど撮影のノウハウがないと思うし、舞台の撮影では音がわかりにくくなるのははたまにあるので)。

 全体的にナショナル・シアターとの差異化に苦労しているのではというところがあった…のだが、これはヴィクトリア朝のものをお芝居にする時にけっこうポイントになるところなのかもしれない。ジェーン・オースティンのリージェンシー時代ならオシャレな時代なので、先日の『エマ』みたいに別のオシャレな時代の衣装を取り入れるとかいろいろ先行作とはがらりと違うものに見せる工夫がしやすいのだが、ヴィクトリア朝だとリージェンシーほど衣類が派手でないことが多い上、ブロンテなどは荒れ地の風土が重要になってくるのであんまり激しくヴィジュアルを変えることができないし、見た目も地味になりやすい。ナショナル・シアター・ライヴのものはかなり時代劇っぽさをなくす攻めた演出だったのだが、まあああいうものが出てくるとけっこう影響も受けるのかなぁ…と思った。