音楽は迫力があるのだが、どうも話が苦手で…メトロポリタンオペラ『ナブッコ』(配信)

 メトロポリタンオペラの配信でヴェルディナブッコ』を見た。2017年に撮影されたものである。 タイトルロールであるバビロニアナブッコ(プラシド・ドミンゴ)とその娘たちを中心に、バビロニアの人々がユダヤ教に改宗するまでを描く作品である。

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 旧約聖書を翻案したとてもドラマティックな内容で、ユダヤ教徒たちが合唱する「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」とか、音楽的に盛り上がるところはたくさんある。プラシド・ドミンゴのオペラを初めて見たのだが、お年とはいえさすがにステージでの存在感がある。また、前半の地味なセットが中盤のクライマックスで燃え上がり、後半はけっこうキラキラのセットになるという視覚的対比も面白かった。前半の神殿部分のセットはあまり見慣れない模様で装飾されており、風変わりなデザインだな…と思っていたら、火をつけるとすごく効果的(+たぶん安全)に燃え上がるようになっていて、なるほどこんな視覚的効果を狙っていたのか…と感心した。

 しかしながら、これは完全に趣味の問題なのだが、どうもお話の展開が苦手で好きになれなかった。ナショナリズム的な文脈があるのはわかるのだが、そもそもユダヤ教にみんなが改宗するのがハッピーエンドというようなお話はどうしても批判的に見ざるを得ない。また、キャラクターの扱いにかなりひっかかるところがある。ナブッコの娘アビガイッレ(リュドミラ・モナスティルスカ)は猛々しくカッコいいヒロインで、父の軍隊を率いて功績をあげるのだが、途中で王位継承権のない奴隷の娘だということがわかる。それでも王位を狙ったアビガイッレが最後は失墜して死亡して終わり…という展開で、野心の強い女性が罰を受けて終わりというのはどうもミソジニーを感じる。

 

 一点、演出でちょっと疑問に思ったのは、アビガイッレとやはりナブッコの娘であるフェネーナ(ジェイミー・バートン)のヘアスタイルがけっこう似ているということだ。お化粧とかは全然違うのだが、2人とも黒っぽい髪を巻いて長くのばす髪型にしている。これだけ性格の違うヒロインだしライバル心もあるだろうから、ヘアスタイルは一目でわかるくらいがらっと変えたほうがいいのでは…という気がした。あと、これは字幕の問題かもしれないのだが、アビガイッレが'slaves'つまり複数の奴隷の娘だというような英語字幕が出ていて、イマイチなんでアビガイッレが王の娘として育てられているのかよくわからなかった。メトのあらすじでは王の実の娘ではないと書かれている一方、新国立劇場にあるあらすじとかではナブッコと女奴隷の娘だと書かれており、私はイタリア語もわからないので、ちょっと親族関係が判然としない。