理容室は男性が「男らしく」なりに来るところ~『バーバーショップ・クロニクルズ』(配信)

 ナショナル・シアターの配信で『バーバーショップ・クロニクルズ』を見た。イヌア・エラムス作、ビジャン・シェイバニ演出のものである。これはナショナル・シアター・ライヴのラインナップに全く入っていなかったものなので、配信されるとは予想しておらず、さらにアーカイヴ映像なのにふだんのNTライヴとあまり変わらない撮影クオリティでビックリした(NTライヴで上映予定のない上演アーカイヴ映像は、若干撮影が手抜き気味のもある)。配信が初公開らしいのだが、テレビ放映でもするつもりだったのかな?

www.youtube.com

 かなり複雑な話で、ロンドン(英国)、ラゴス(ナイジェリア)、ヨハネスブルク(南アフリカ)、カンパラ(ウガンダ)、アクラ(ガーナ)、ハラレ(ジンバブエ)の理容院を舞台に、男たちの悲喜こもごもを描いた作品である。登場人物も多いし英語もかなり難しく(アフリカの英語で、まあ日本語でいうと濃い広島弁とか津軽弁みたいなものだと思ってもらえればいいのか、とにかくわからない単語がいっぱいある)、さらに私はこの作品の大きなモチーフであるサッカーの知識があまりないので、正直一度見ただけで全部理解できたとはあまり思えないのだが、とてもよくできた作品だ。かなり深刻な内容を扱っていると思うのだが、笑いも音楽やダンスもあり、とくにラップの選曲センスがすごくいい。

 

 基本的にはコミュニティの中心である理容院にアフリカ系の男たちが集って、サッカー観戦をしながら政治やら音楽やら家族やらいろんな話をするというものだ。男らしさにまつわるさまざまなトラブルを正面から扱ったもので、大きなテーマとして父子関係の問題がある。昔みたいなお父さん像ではもうやっていけない、どうやって良い父親になったらいいのだろうか、というような問いかけが続く作品で、とくに若いサミュエル(フィサヨ・アキナデ)まわりの人間関係が終盤のキモになっている。

 理容院というのは男性が見た目を整える場所で、つまり男たちは理想の男みたいな姿になりたくて理容院にやってくる。この映画では何度かラッパーみたいな髪や髭に…というリクエストをする男たちが出てくるのだが、黒人男性の男らしさの理想像というのは今ではラッパーみたいな容姿だということが示されている。しかしながら、理容院の男たちは見かけを整えて男らしく見せたいという気持ちはあっても、いろいろなトラブルを抱えている。その様子をかなり鋭く描きだしていく。

 

 正直、完全に個人的な好みの問題で私はけっこうこの芝居はキツかった。私は『ジトニー』とか『モジョ』とかもよく出来ているとは思うもののかなり苦手だったので、たぶんこういう男の人がいっぱい出てきてひたすら男性同士の深刻な人間関係の問題がつらく苦しく描かれるみたいな芝居が得意ではないのだろうと思う。笑うところがあっても、なんかたまにとてもイヤな気持ちとか悲しい気持ちになるところがあり、イマイチ後味が良くない。