コリオレイナスと情愛の場~ストラトフォード・フェスティヴァル『コリオレイナス』(配信)

 ストラトフォード・フェスティヴァルの『コリオレイナス』を配信で見た。2018年の上演で、ロベール・ルパージュ演出である。

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 ロベール・ルパージュらしい演出で、最初の彫像がしゃべる特殊効果のところからちょっとビックリする。プロジェクションなどをたくさん使い、セットも豪華で、設定は完全に現代だ。コリオレイナス(アンドレ・シルズ)やオーフィディアス(グレアム・アビー)は軍服を着ているし、ローマの政治家たちはかちっとしたスーツに身を包んでいる。放送局、レストラン、政治家御用達のバー、軍の飛行場など、いかにも現代風なセットで物語が展開する。ヴォルスキ軍はスマホのメールで情報をやりとりしている(セリフを言うかわりに背景にメールのテキストメッセージが表示され、絵文字まで登場する)。

 ヴォラムニア(ルーシー・ピーコック)が大変政治家らしい母親として存在感を発揮している一方、全体にエロティックな男同士の絆を強調しているところがこの演出の特徴だ。ローマを追い出されたコリオレイナスがオーフィディアスの前に出て、自分を受け入れるか殺すかだと迫るところでは、オーフィディアスがコリオレイナスに触って殺すのか…と思わせたらなんだかベタベタ触って大歓迎しはじめ、そこから二人で格闘ごっこを初めて男同士で絆を深めるという、男性間のエロティックな情愛を強調する演出がある。全体的にヴォルスキ軍はちょっとベタベタした親密な人間関係を大事にする慣習がありそうに見える。ヴォルスキ人の軍人が上官と部下でメールをやりとりするところは親しそうなくだけた雰囲気だし、またオーフィディアスの部下がコリオレイナスの人気ぶりを心配して上司のところに相談に来るところは、なんかちょっと上司がオーフィディアスを評価してるのに部下のほうが嫉妬してるみたいな雰囲気がある。コリオレイナスがローマ攻撃をやめた時のオーフィディアスはまるでコリオレイナスをローマの女にとられたかのような悲しそうな雰囲気で、コリオレイナスの死後もオーフィディアスは相当にショックを受けており、この2人の間にはなんらかの感情的な湿った絆がある。一方、ローマ人はもうちょっと冷たく、距離を置いた人間関係をとっているようで、そのあたりに対比がある。

 このプロダクションのコリオレイナスは大変パワフルでカリスマのある軍人だ。しかしながら、傲慢ではあるもののどちらかというとベタベタした親密な人間関係に居心地良さを感じているところがあるのかもしれず、ヴォルスキ軍や母ヴォラムニアを中心とする家庭はそういう人間関係を与えてくれる場所だ。このコリオレイナスはその2つの情愛の場の間で引き裂かれているのかもしれない。