常に揺れ動いているような演出~ブッフ・デュ・ノール『ハムレット』(配信)

 ブッフ・デュ・ノールの『ハムレット』を配信で見た。ピーター・ブルック演出、エイドリアン・レスター主演で、2001年のものである。おそらくテレビ用に撮影したものだと思う。既に配信は終了している。

 衣装はあまり時代も場所もわからない感じのものにしてある。全体的に赤っぽい色調の舞台で、屏風や絨毯、キャンドルのある部屋を人がうろうろしているというような感じの上演だ。キャンドルの光が揺れる様子が強調されており、登場人物の思考も常に揺れ動いているような感じがする。これは優柔不断さを感じさせる一方、知的なエネルギーの動きも感じられる。

 エイドリアン・レスターが演じるハムレットは、正直なところ、私が今まで見た中でこれだけ容姿端麗で悩める優男ふうに作ってあるハムレットトム・ヒドルストンくらいなものである。何しろすらっとして長身でスタイルに品がある上、目元に愛嬌があり、この目の表情を生き生きと使った演出にしている。髪の毛は短めのドレッドロックなのだが、ほっそりした姿を黒いスーツに包んでちょっとギャップのあるファッションにしているあたり、いかにもアート好きの演劇青年風な魅力がある。全体的に揺れ動いているような演出の中でハムレットの表情もくるくる変わり、悩んでいるところでは深刻な表情で目に隈を作り、面白い話をするところでは目にユーモラスな微笑みを浮かべる。

 台本はかなりばっさりテキレジしてあり、すっきりした印象を受けるが、一方でオフィーリアの狂気のところとかはほぼ導入なしにオフィーリアが狂気の独白を初めており、少し唐突に思われるところもある。ふつうの上演だとあまりないような演出もあり、ハムレットがポローニアスを殺した後、オフィーリアとすれ違って目があうという珍しい場面が挿入されている。さらに「生きるべきか死ぬべきか」の独白はその直後に来ていて、最後には涙を流しており、取り返しのつかないことをしてしまったハムレットの後悔を感じさせる。レスターのハムレットは、わりとたまに早口になったりたまに止まったりするナチュラリスティックな話し方でこの独白を処理しており(これはアンドルー・スコットの先行例と言えるかもしれない)、止まらずにぐるぐる回る思考をそのまま口にしているような印象を与える。これが全体の揺れ動きの演出によくあっている。