散らばる紙~サザーク劇場Wasted (配信)

 サザーク劇場のWastedを配信で見た。ブロンテきょうだい(ブランウェルを含むので)を描いたミュージカルである。2018年に上演された作品だ。

southwarkplayhouse.co.uk

 四角いセットで真ん中からコードがつながったマイクが出ていて、各出演者はこの草みたいに地面から生えているマイクを持って歌う。後ろにバンドがおり、生演奏がつく。音楽の曲調はいろいろだが、最初のほうはちょっと歌が素人っぽく聞こえるところがあったものの、後半は良くなった。最初はマイクしか生えていなかった荒れ野みたいな舞台が、だんだんいろいろなものが散らばって、最後は原稿だらけの「豊かな」荒れ地になるところが視覚的に面白い。原稿はまるでタイトルどおりWastedされてるみたいに見えるのだが、たぶん死んだ生き物が土にかえるみたいに、このゴミみたいな散らばりがある種の豊かさを生んでいるという意味なんだろうと思う。

 タイトルがWastedというだけあって、あまり明るい話ではない。4人のきょうだいがヨークシャのハワースでいろいろ苦労していて何もかもうまくいかない…というような作品だ。シャーロット(ナターシャ・バーンズ)が一番世間慣れしているのだが、たぶんそういう性格ゆえにアーサー・ニコルズと結婚してニコルズ夫人となり、つまりは自分の名前を失って死んでいくというのはなかなか悲しいし、一方でいつも不機嫌で付き合いにくそうなエミリー(シヴォーン・アスワル)は家族の中でもけっこう扱いづらそうな感じだ。しかしながら、いくら第一作の詩集が2冊しか売れなかったとはいっても後世に名を残したシャーロット、エミリー、アン(モリー・リンチ)の3姉妹に比べると、一番wastedだったのはブランウェル(マシュー・ジェイコブズ・モーガン)なのだが、このブランウェルは描き方によってはかなり暴力的な男になりそうなところ、台本と演技で困った人だが夢見がちで繊細でそこまで嫌な感じがしないキャラクターに作っている。