撮影に問題がありすぎる~カーヴ劇場『真面目が肝心』(配信)

 カーヴ劇場が配信しているワイルドの『真面目が肝心』を見た。ニコライ・フォスター演出で、2016年のプロダクションを撮影したものである。レディ・ブラックネルを映画『モナリザ』のキャシー・タイソンが演じている。

vimeo.com

 とりあえず、これはものすごく撮影に問題があるプロダクション映像である。プロダクションの様子が漠然とわかる程度といったところだ。完全にアーカイヴレベルの映像で、たぶんテレビ放映も無理だろうと思う。

 まず、セットが鏡みたいに磨き上げたメタルの箱で、そこらじゅうに人間の影が映るようになっている。これはアイデンティティをテーマにした芝居としてはうまいセットで、アルジャノン(エドワード・フランクリン)とジャック(フェラ・ラファデジュ)の二重生活やセシリー(シャラン・ファル)の暴走する想像をよく表現しているし、おそらくライヴの舞台では効果を発揮すると思われる。しかしながら、カメラで写すと奥行きがよくわからなくなるせいで、全体的に目がチカチカする大変つらい映像になってしまっている。

 さらにカメラが客席奥の一カ所に固定で全く動かず、クロースアップもない。舞台を奥からずーっと撮ってるだけで、役者がかなり小さく見える。家のモニタで見ていると、役者の表情とか衣類のデザインの詳細などはほぼ全く見えない。衣装はかなりカラフルな現代風のもので、キャラクターの性格をよく表現していると思われ、もうちょっと近くで見せてほしいと思うのだが、ほとんど細部がわからない。さらにたまに客席から笑いが出て、おそらく役者の表情が可笑しいんだろうな…と思われるところがあるのだが、これもだいたいわからない。キャシー・タイソンの表情とか、あとかぶっている素敵な帽子などは是非もっとしっかり見たいところなのだが、まあほぼ見えない。

 さらに音にも問題がある。こういう金属で囲んだセットだと音が反響しやすいのだが、役者の立ち位置によってはなんだか台詞がボワーンとしてとても聞き取りづらいと思えるところがある一方、床を打つ靴の音とかはやたらよく聞こえる。もっと録音を工夫したほうがいい。笑うところはたくさんあるし、全体的にいろいろ面白いところのあるプロダクションではあるのだが、この撮影は大変残念である。