これは地方の市民演劇のお手本になるのでは~パイロット劇場Everything Is Possible: The York Suffragettes (配信)

 ヨークのパイロット劇場が配信しているEverything Is Possible: The York Suffragettes (『なんでもできる~ヨークのサフラジェットたち』)を見た。ブリジット・フォアマンの戯曲で、2017年のプロダクションである。演出はジュリエット・フォスターとケイティ・ポズナーがつとめている。

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 主人公はヨークの実在したサフラジェット、アニー・シーモア・ピアソン(バーバラ・マーテン)である。芝居の冒頭ではプリムローズ・リーグに参加しているような保守的なミドルクラスの主婦だったアニーが女性参政権運動に身を投じる姿を描いている。有名な女性参政権運動家も出てはくるのだが、メインの登場人物はヨークにかかわりのある実在の女性たちで、階級もいろいろだ。最後はやはり第一次世界大戦で終わる。

 床に文字が書かれているセットで、凝った照明を使っており、音楽もふんだんに使われている。終盤でサイレント映画風なドタバタがあるなど、演出もわりと工夫がある。全体としてはヨークの地元の女性たちがいかに他の地域の女性たちと交流しつつ自由を求めて活動していたかを群像劇風に描くものになっている。オーストラリアから来たフェミニスト、ホッジの演説で、女性の投票権は特権ではなく当然の権利なのだということが示され、ヨークの女性たちがそれに賛同するところなどは、ヤジなども含めてとても生き生きと描かれている。一方でハンストと強制給餌や、警察の横暴なども盛り込まれている。この手の芝居にしてはアニーの夫のアーサーが比較的奥行きのあるキャラクターであるところとか(『逢びき』の夫みたいだと思ったらやっぱり他にもそう思ってる人がいたらしい)、サフラジェットたちの間に生じるレズビアン的な絆が描かれているあたりなども良い。

 驚いたのは、この芝居に出演している150人くらいの役者と80人くらいの音楽隊のうち、プロの役者はヒロインのアニーを演じるマーテンだけで、あとはアマチュアの地元民だということだ。たしかに地元の偉人を扱いましたというお芝居だし、最後の人海戦術で歌うところなどは町おこし事業っぽい感じもするのだが、全体の演技のクオリティは大変良いし、急ごしらえの公共事業っぽい素人的な安い感じが全然ない。必要なところではプロを雇って時間をかけて非常にしっかり準備をしたのだろうが(アマチュアとはいえ経験がある人も参加してるだろうし)、これだけのものが市民参加型の公共文化事業としてできるというのはすごいことだと思う。