おとぎ話の本の世界~アイリッシュナショナルオペラ『チェネレントラ』(配信)

 アイリッシュナショナルオペラ『チェネレントラ』を配信で見た。ファーガス・シェイル演出で、2019年に上演されたものである。オペラヴィジョンで期間限定配信されている。

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 メトロポリタンオペラ版もずいぶんセットが凝っていたのだが、これもとても凝ったセットのプロダクションだ。序盤のチェネレントラの家はおもちゃみたいな小さい作りで、チェネレントラが息苦しく暮らしている様子を強調していたが、宮廷の場面では背景にばかでかい本の背表紙が並ぶという変わったインテリアで、しかも背表紙から判別できるタイトルの大部分は『ピーター・パン』やシャルル・ペロー、グリムなどのおとぎ話やファンタジーだ。古風で可愛い装丁にしてある一方、出版社は「シャムロック出版」とか「アイルランド出版」とか、アイルランドっぽい架空の名前になっているところも芸が細かい。最初は小さい家に押し込められた巨人みたいだった登場人物たちが、中盤では本棚を歩き回る小人たちみたいに見えるし、おとぎ話風の枠もうまく効いている。

 チェネレントラ役はアイルランド出身のタラ・エロートが歌っているのだが、温かみのある声に親しみやすい役作りで、技巧的なアリアをこなしつつもたまにニコっと笑ったり嬉しそうな顔をしたり、表情豊かで明るい魅力がある。ラミロ王子(アンドルー・オーウェンズ)もあまり貴公子っぽくない近所の優しいおにいちゃんみたいな感じである。チェネレントラもラミロもどうやら本が好きらしく、くだけた雰囲気で、2人が並ぶととてもお似合いのカップルに見える。