歌は大変いいのだが、ダンスが…メトロポリタンオペラ『サロメ』(配信)

 メトロポリタンオペラ『サロメ』を配信で見た。ユルゲン・フリムが演出で、2008年に上演されたものである。

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 完全に現代的なセットや衣装で、白い豪華なスーツのヘロデ(キム・ベグリー)とドレス姿のヘロディアス(イルディコ・コムロージ)は現代の政治家カップルだ。美術としてはちょっと抽象絵画みたいな印象を与えるところもあり、リアリズムというわけではない。ただ、中央手前のヨカナーン(ユハ・ウーシタロ)が入れられている地下牢(井戸)のところはかなり出入り口が大きく出っ張っており、客席の位置によっては視界を遮るかもと思った。

 サロメ(カリタ・マッティラ)の歌や演技は大変素晴らしい。サロメは恋心が冷酷に拒絶されてショックを受けた女性として表情豊かに演じられている。放心したような表情のサロメがナラボートを足蹴にしてヨカナーンに迫るところでは、ヨカナーンサロメの手首をつかんで拒み、2人の目があうところがあって、歌ともあいまって大変劇的だ。

 ただ、歌や演技のわりにダンスが平板だと思った。バーレスク風の振付なのだが、マレーネ・ディートリッヒ風の男装というのはまあよくあるものだし、たぶんあれはバーレスクとしてはそこまで洗練されていないほうだと思う。さらに、サロメはズボンを履いて登場し、他の男性を振付に取り込んでストリップティーズをするのだが、これってマッティラのように成熟した魅力のある大人の女が踊る振付で、設定上のサロメみたいな初恋に苦しむ若い女が踊る振付ではないんじゃないかと思った。正直、マッティラみたいなタイプ以外のパフォーマーが踊って面白くなるとはあんまり思えないし、全体の一貫性という点でも少し疑問がある。あと、数日前に見たウィーンの『サロメ』でも思ったが、サロメは踊る時にあんまりヘロデを気にしないほうがいいと思う。