愛する人を失う悲しみ~ブリストル・オールド・ヴィク『メサイア』(配信)

 ブリストル・オールド・ヴィクの配信で『メサイア』を見た。トム・モリス演出、ハリー・ビケット指揮で2017年に上演されたものらしい。古楽専門のイングリッシュ・コンサートが演奏を、同じくポリフォニーが専門の合唱団であるエレバス・アンサンブルが合唱を担当している。

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 オラトリオということでオペラのような大がかりなセットなどはなく、現代の衣服を着た歌手たちが横たわるイエス(キャスト表によると「愛されし者」)の周りで歌を歌うというようなものである。イエスの役はオペラ歌手ではなく役者で、脳性麻痺の障害があるジェイミー・ベッダードが演じており、だいたい寝ているだけで少ししか動かないのだが、それでもカリスマがある役どころとして提示されている。ソリストボーイソプラノがいるなどいろいろ工夫があり、人々がイエスに寄せる信頼をシンプルだがパワフルな形で伝えようとするプロダクションだ。冒頭部分の解説では、どちらかというと信仰心よりは愛する人を失う悲しみみたいな普遍的な精神性が強調されていたが、全体の演出もそれに沿ったものになっていると思う。