一種の猫ミュージカル~ベルリン・コーミッシェ・オーパー『クレオパトラの真珠』(配信)

 オペラヴィジョンの配信でベルリン・コーミッシェ・オーパー『クレオパトラの真珠』を見た。オスカー・シュトラウスが1923年に作曲したオペレッタで、あまり上演されないものらしい。演出はバリー・コスキ、指揮がアダム・ベンズヴィで、2016年に撮影されたものである。

www.youtube.com

 タイトルからわかるようにエジプト女王クレオパトラ(ダグマー・マンツェル)がヒロインである。無聊を託っている美しき女王クレオパトラの目の前にハンサムなローマの軍人シルヴィウス(ドミニク・ケーニンガー)が現れ、2人はたちまちデキてしまうが、実はシルヴィウスはクレオパトラの侍女シャーミアン(タルヤ・リーベルマン)の恋人だった。シルヴィアスは革命分子コフラに扇動されるのだが、反乱は事前に察知され全員逮捕される。シルヴィウスも処刑されそうになるのだが、クレオパトラがカッコいいところを見せて結局許され、チャーミアンと結ばれる。さらにクレオパトラはローマからやってきたアントニー(ペーター・レンツ)と会談し、2人はすっかり意気投合する。

 舞台は古代エジプトなのだが、雰囲気はどっちかというとこのオペレッタが作られた時代のドイツのキャバレーショーかサーカスみたいな感じで、少々オリエント風味ではあるものの、みんなやたら派手でサーカス風な衣装を着ている。電話やティーポットなど現代風の家具も登場する。音楽もたまにオリエント風だったり『アイーダ』なんかのパロディがあったりするが、基本的にはウィーン風の軽くて華やかなものである。部分的に音楽がかなり新しい感じに聞こえるので、アレンジしてあるのかもしれない。

 内容は全面的にアホっぽいドタバタ喜劇で、台詞の使い方といい、ちょっと話の内容がきわどくなってくると群舞が始まったりするあたりといい、オペレッタというよりはほぼ今のミュージカルに近いと思った。展開のハチャメチャぶりはギルバート・アンド・サリヴァンのコミックオペラにも似ており、『メリー・ウィドウ』とか『こうもり』みたいな笑えるとはいえ洗練されたドイツ語圏オペレッタに比べるとけっこう下世話でしっちゃかめっちゃかだ。

 できるだけ笑えるようにいろいろ工夫した演出で、カラフルな舞台にカラフルな衣装で軽快な作品に仕上げられている。クレオパトラの飼い猫インゲボルクがけっこう活躍していてなんか猫ミュージカルみたいなところもあるのだが、クレオパトラ本人が片手のパペットでこの猫ちゃんを表現しているあたりは面白い。演出の仕方によってはクレオパトラがアホっぽく見えてなんかミソジニー的にもなりそうだと思うのだが、このプロダクションではマレーネ・ディートリッヒみたいに堂々とした女王で、気まぐれだが鷹揚で、とくに終盤のシルヴィウスを許してからアントニーと出会うあたりはとても人間味がある。歌も良かったし、大変楽しいプロダクションだった。