衣装の良し悪し~ドレスデン・ゼンパー・オーパー『薔薇の騎士』(配信)

 ドレスデン・ゼンパー・オーパーの配信で『薔薇の騎士』を見た。ウヴェ・エリック・ラウフェンベルク演出、ファビオ・ルイージ指揮によるもので、2000年の上演である。ドイツ語で英語字幕がつく。

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 衣装やセットはわりと大がかりかつ華やかなもので、現代風なところもあるが、上流階級の伝統を残している雰囲気のものになっている。全体的に衣装はかなり凝ったものだ。貴族の世界である第1幕はわりと伝統的な雰囲気なのだが、新興のファニナル家が舞台の第2幕のほうがモダンだ。第2幕のオクタヴィアン(アンケ・フォンドゥンク )が求婚のお遣いでファニナル家に行く場面ではマスコミが来ており、オクタヴィアンとゾフィ(森麻季)の広報写真を撮るなどという演出もある。ここで意気投合してしまった2人がまるっきりカップルのように見えるので、「もうちょっと離れて」などという撮影ポーズの指示が出るところがおかしい。

 オクタヴィアンが持ってくる銀の薔薇は金属ではなくガラス工芸品になっており、ゾフィは水色のチューブトップの上に花柄レースのノースリーブをかぶせたモダンで可愛いドレスを着ていて、繊細な花を思わせるドレスと小道具の薔薇がとてもマッチしている。この場面ではオクタヴィアンの騎士の礼服も水色系で、衣装がゾフィとの相性の良さを暗示している。一方、オックス(クルト・リドル)は黒いスーツを着ている威圧的な中年男で(老人ではないのだが自分の力を過信してるタイプ)、軽妙で淡い色が似合うゾフィとは明らかに合わない。

 ただ、第3幕の居酒屋でゾフィが着ている衣装はちょっとどうなのかなと思った。現代女性らしいグレーの地味な衣装を着ているのだが、なんだかパッとしなくて女学生みたいに見える。これが貴族的で堂々としたマルシャリン(アンネ・シュヴァネヴィルムス)が着ているものすごくオシャレな白黒の女性用スーツに比べるとかなり見劣りする。この場面ではマルシャリンが歌でも演技でも成熟した大人の女性の魅力を発揮しまくっており、衣装の色やスタイルもオクタヴィアンの衣類とマッチするようなデザインになっているので、オクタヴィアンがマルシャリンと別れてゾフィと一緒になるという展開の説得力が減ってしまうように思った。