3ヶ月ぶりの劇場~『願いがかなうぐつぐつカクテル』

 新国立劇場ミヒャエル・エンデの『願いがかなうぐつぐつカクテル』を見てきた。小山ゆうな演出で、通常より客席の人数を半分にして上演されるものである。席は一つおきにしか座れず、座れないところには妖精がいる設定になっている(子供向けで魔術が出てくるお芝居なので)。

www.nntt.jac.go.jp

 ファウスト伝説がベースの児童文学である。大晦日の夜、悪魔と契約して世界の破壊に励んでいる悪徳研究者のイルヴィッツァー(北村有起哉)のところに、おばでやはり悪党であるティラニア(あめくみちこ)が訪ねてくる。2人は悪魔からの差し押さえを避けるため、願いがかなうぐつぐつカクテルを作って世界を破壊しようとする…のだが、それを防ぐべく、動物の委員会から派遣されていたスパイである猫のマウリツィオ(松尾諭)とカラスのヤコブ森下能幸)が策を練る。

 たいへんソーシャルディスタンシングに留意した舞台で、演者は全員、口元にシールドをつけているのだが、基本的に突飛なファッションの魔法使いと動物が主要人物なので、あまりシールドに違和感がない。イルヴィッツァーとティラニア(すごくぶっとんだファッションをしている)は魔法使いの衣類の一部みたいに見えるし、マウリツィオの口には猫らしいω型の衣装、カラスにはくちばしがついているので、全くおかしくない。このあたりの工夫は非常に感心したが、ただ、これは題材がそういう作品だからであって、全部の作品でこれだけうまくできるかというとそうでもない気がする。

 内容は子供向けにしてはけっこうブラックユーモアあふれるものだ。オチがなかなか辛辣だし、浮世離れした聖シルヴェスターが話し始めるとどんどん脱線してしまうというお約束展開は笑えた。ヤコブにはあちこちにガールフレンドがいるらしいとか、大人向けのギャグも盛り込まれている。楽しい作品なのだが、ただ、歌などは要るかなぁ…という気がしたし、少し長いと感じられるところもあった。

 なお、この作品では大晦日に聖シルヴェスターの鐘を鳴らすのが大事な宗教的儀礼として描かれているのだが、ドイツ語圏にも除夜の鐘的な習慣があるんだろうか?それともこのお芝居での脚色なのだろうか…