若い女性がヒロインだと中年女性の描写がおそろかになってしまう問題~『ワイルド・ローズ』(ネタバレあり)

 トム・ハーパー監督『ワイルド・ローズ』を見てきた。

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 ヒロインはグラスゴーのカントリー歌手、ローズ=リン(ジェシー・バックリー)である。ローズ=リンは2人子供がいるシングルマザーで、麻薬関連の犯罪で服役しており、刑務所出たてで子供を抱えて歌手の夢を追っている。母親のマリオン(ジュリー・ウォルターズ)は夢ばかり追っている娘のことを心配しているが…

 グラスゴーなんていうところでカントリーをやっているというだけでなかなかキツいと思うのだが(イギリスにもわりとカントリーのファンはいて、一応グラスゴーにもファンが集うクラブがあるということが描かれているのだが、若い友達からはダサい音楽扱いされそうだと思う)、さらにさまざまな人生の問題を抱えているワーキングクラスの女性ローズ=リンが夢を追う様子を生き生きと描いた作品だ。ジェシー・バックリーの演技と歌がとにかく良く、なんでローズ=リンがカントリーに惹かれているのかということがよくわかる描き方になっている。ローズ=リンはあまり付き合いやすいタイプのヒロインではないのだが、そのあたりを美化せず、人間味をもって描写しているあたりが良い。

 ただ、ローズ=リン以外のキャラクターはちょっとうまく扱えていないところがある。とくにローズ=リンの雇い主スザンナ(ソフィ・オコネドー)のキャラクターはかなりキャラ付けが緩い。スザンナがどうして急にローズ=リンを支援しようと思い始めるのかがよくわからず、ポッと出てきてヒロインを助けようとして、トラブルでただ出て行くみたいな感じになってしまっている。スザンナも昔芸術をやろうとして挫折したことがあるとか、あるいは地域で合唱団か何かをやってるとか、ちょっとした背景を描写するだけでスザンナがローズ=リンに興味を示す理由がわかりやすくなるので、たぶんそういう描写を入れるべきだった。さらに最後、ちゃんとスザンナとローズ=リンがお互いに面と向かって話して和解する場面を入れるべきだったと思う。ミドルクラスの中年の非白人女性とワーキングクラスの若い白人女性の組み合わせということで、もう少し脚本をしっかり整えていればずっと面白くなったのではないかと思うので、このあたりは非常に残念だ。これだと正直、イギリスでは大女優であるソフィ・オコネドーの無駄遣いだと思う。この間『白雪姫』を見た時もイザベル・ユペールが無駄遣いだと思ったのだが、若いヒロインと中年女性の友人みたいな組み合わせだとどうも中年女性キャラのほうの描写がつまらなくなってしまう傾向はあんまりよろしくないと思う。