手堅い演出だが、撮り方は昔風~メトロポリタンオペラ『ファルスタッフ』(配信)

 メトロポリタンオペラの配信で『ファルスタッフ』を見た。フランコ・ゼフィレッリ演出、ジェームズ・レヴァイン指揮による1992年の上演である。かなり長い間にわたって再演されていたロングセラー演出を記録したものらしい。

www.metopera.org

  セットや衣装はルネサンス風のものである。非常に生活感のある美術で、最初はかなり庶民的な衣装で出てきていた陽気な女房たちがフォルスタッフをだまくらかす企みのところではわりと豪華な衣装で張り切っていたりするあたりが面白い。小柄でちょこまかとしたクィックリー夫人(マリリン・ホーン)は大変喜劇的でユーモアに富んでおり、女房たちに並んで大活躍していた。セット撮り方はけっこう昔風というか90年代っぽく、森の場面ではわりと照明が暗いので後ろのほうにいる人たちが見えづらいのがちょっと残念だ。

 いかにもゼフィレッリっぽい演出で、ルネサンス風の舞台にわちゃわちゃと人々が出てきて手堅く笑わせるという感じのものである。あまりわざとらしくない自然な流れで、音楽もユーモアもしっかりしていて面白いのだが、どちらかというとゼフィレッリの映画版『じゃじゃ馬ならし』に似た雰囲気かなと思った。私は個人的にはゼフィレッリはドタバタ劇の『じゃじゃ馬ならし』よりも『ロミオとジュリエット』や『ラ・ボエーム』みたいなしっとりした恋愛もののほうが趣味にあうのだが、この『フォルスタッフ』は『じゃじゃ馬ならし』よりは面白かったものの、前に放映した『ラ・ボエーム』のほうがだいぶ自分の趣味にあうと思った。