江古田をやっつけろ~『アンチフィクション』(配信)

 DULL-COLORED POP『アンチフィクション』を配信で見た。作・演出・出演すべて谷賢一によるもので、照明とか音とかもほぼ出演者ひとりでやるという徹底した一人芝居である。シアター風姿花伝で上演されていたが、31日まで有料配信もやっている。

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 これはフィクションではないという台詞から始まるある種のドキュメンタリー演劇だと思うのだが、とはいえ、この作品はフィクションである。というのも、この芝居は面白いからだ。たぶんこの物語に出てくるような内容、つまり新型コロナウイルス流行下でふつうに芝居ができず、スランプ状態に陥った劇作家が酒の飲み過ぎその他で苦しんでいる様子をそのまま語ったとしても全然、面白くはないと思う。そういう面白くもなんともないのであろう物語が語り口によってなんらかの一貫性ある面白い話として語られている時点で(最後にちょっとした飛躍もある)、この芝居は現実の手触りのある完全なフィクションだと言える。

 感染症のせいで芝居がろくにできず、舞台芸術界自体が危機に陥っているという現在の状況を大変生々しく描き出している上、単に個人的なトラブルとか焦りをそのまま提示するだけではなくきちんとオチのある洗練されたナラティヴに落とし込んでいるところが面白い。スランプに陥った作家を扱った作品というのはそれこそ『パリで一緒に』とか『恋におちたシェイクスピア』とかいろいろあるわけだが、一方で最初からちょっと『ラスベガスをやっつけろ』を思わせるところがあり、とくに終盤、江古田(私の勤め先のそばなのでは…)のシェアハウスに舞台が移ってからはずいぶんとサイケデリックな展開になる。そういうわけで江古田がやっつけられて終わるのだが、わりと後味の悪くないオチ(結局、この芝居は完成したのだからハッピーエンドだろう)になるのは良いと思った。