ホックニーのセットが魅力的~グラインドボーン『放蕩児の遍歴』(配信)

 グラインドボーンの配信で『放蕩児の遍歴』を見た。原作は有名なウィリアム・ホガースの絵で、ストラヴィンスキーが音楽を、W・H・オーデンとチェスター・コールマンが台本を担当している。これは2010年のプロダクションなのだが、もともとは1975年にジョン・コックス演出、デイヴィッド・ホックニーが美術を担当して作ったロングセラー上演の再演だということだ。

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 お話は絵とはちょっと違っており、非常に世俗的で辛辣な諷刺に満ちているホガースに比べるとちょっとファンタジー的だ。身を持ち崩すタイトルロールの放蕩児ことトム(トピ・レティプー)以外にニック(マシュー・ローズ)という悪魔らしい人物が出てきてトムに悪いことをいろいろ教えており、ファウスト伝説を取り入れた作品になっている。ホガースの絵が原作というだけあって、バロックから古典主義の初期くらいまでの音楽を意識しているらしく、私があまり得意ではないストラヴィンスキーの音楽としてはかなりわかりやすいと思った。

 音楽と歌詞、美術が大変よく合っており、ホックニーのまるでホガースの絵みたいな色味を抑えたセットで、都会でどんどん堕落して落ちぶれても可愛い田舎の若者らしさが抜けない感じのトムを中心に、いろいろな人々が動く様子はまるでおもちゃ箱かドールハウスみたいである。お話じたいが教訓的な紙芝居みたいな内容なので、わざと紙芝居みたいに見せるこの演出はキッチュで魅力がある。教訓的な内容だが、あまり説教臭くはなく、面白おかしい諷刺やメロドラマっぽい要素もある。