男性陣が目立っているような印象~メトロポリタンオペラ『トスカ』(配信)

 メトロポリタンオペラ『トスカ』を配信で見た。4月にメトが配信したのとは別バージョンである。指揮がリッカルド・フリッツァ、演出がリュック・ボンディで、2013年に上演されたものである。

metoperafree.brightcove.services

 わりとシンプルで黒っぽいセットを使っている。セットに段差をもうけて高低差を使った演出がかなりあり、スカルピア(ジョージ・ギャグニッザ)初登場場面でスポットがあたって教会の上の階から現れるところなどはけっこうこのセットがよく効いている。スカルピアは強面だが堕落しきっており、オフィスには執務中だというのに娼婦だと思われる女たちがたむろしていて、偉ぶっているわりには女の尻を追いかけるばかりで自由主義者を取り締まる以外に仕事してないのでは…と思われる。

 全体的に男性陣が目立っているような印象だ。カヴァラドッシ(ロベルト・アラーニャ)はものすごい色男で、冒頭で絵のモデルとトスカを比べてどっちもきれいだとか歌うあたり、アホっぽい歌詞なのに実に愛らしく、浮世離れした優男の芸術家風に歌いこなしていてチャーミングだ。第3幕冒頭、歌わずに死刑までの時間、チェスをして過ごすところの張り詰めた表情なども良く、おどけたところとシリアスなところでメリハリがしっかりしている。一方のスカルピアも実にイヤな悪役で迫力がある。ところがトスカ(パトリシア・ラセット)はちょっと印象が薄い…というか、前に見たソニア・ヨンチェヴァのほうが庶民的ながら凜々しいところがあって私の好みだった。このプロダクションのトスカも庶民的で生活感のある女性で、それはいいのだが、カヴァラドッシが伊達男すぎて、強さよりはただ健気にハンサムな恋人に尽くしているみたいな印象が否めない。ただ、歌は良かったし、スカルピアを殺した後にしばらくオフィスにとどまって小道具の扇を見つけるあたりのスリリングな演技は良かった。

 今回見て気付いたのは、『トスカ』はけっこう『ラ・ボエーム』に似ているということだ。どちらも芸術家たちが自由を求める物語である。ちょっと違うのは『トスカ』は男性であるカヴァラドッシだけではなく、ヒロインのトスカもこだわりのあるプロの芸術家だということである(『ラ・ボエーム』のミミもムゼッタも芸術的なセンスのある女性だとは思うが)。