カラオケの場面がとにかくよくできている~『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』

 オリヴィア・ワイルド監督『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』を見てきた。

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 優等生のモリー(ビーニー・フェルドスタイン)とエイミー(ケイトリン・ディーヴァー)は親友同士で、高校卒業を控えていた。ろくに遊ばず、真面目に勉強や課外活動をしていた2人だが、モリーは卒業を目前にして、他の遊びまくっていた同級生たちも好成績で名門大学に進学していることを知る。これにショックを受けたモリーは今までの分を取り戻す勢いで遊ぼうと決め、エイミーを引っ張ってパーティに行こうとするが、いろいろとハチャメチャなトラブルが起こって…

 真面目な高校生2人が卒業を目前にパーティではっちゃけようとしてさまざまなトラブルに遭遇する、という点では『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007)とほぼ基本の設定が同じで、さらにキャラクター造形とかもよく似ている。『スーパーバッド』のセス役だったジョナ・ヒルの妹であるビーニー・フェルドスタインがモリー役なのだが、2人ともけっこう口が悪くてアクが強く、かなり雰囲気が似た役だ。セスの相棒エヴァン(マイケル・セラ)とエイミーも立ち位置がそっくりで、わりと下品な悪口を平気で言う相棒に対して、陰口は良くない的なことを言ってたしなめる穏やかな性格の親友というキャラ設定が共通している。相手を引っ張りまわすほうのアクの強いキャラが親友を独り占めしたくて嫉妬したり、終盤にしょうもない嘔吐ネタがあったりするあたりもよく似ているし、「それ、この2人にここで使うか?」みたいにミョーに大仰でノリのいい音楽の使い方も共通していると思う。

 ただ、明らかに『スーパーバッド』と違うのは、モリーは人気のないオタクキャラという設定だったセスと違って、友達は少ないかもしれないが生徒会長で一応人望はあるらしく、どっちかというと一目置かれてはいるが敬遠され気味な優等生だということだ。作中ではエイミーが学校でエネルギッシュなモリーのサイドキック扱いされることに抵抗感を示すところがあり、たぶんモリーは高校では頼りがいのある濃いキャラとしては認められていると思われる。そして親友エイミーはオープンリーレズビアンである。このへんは同じくジョナ・ヒル主演作である『21ジャンプストリート』あたりの感覚に似てる…というか、『21ジャンプストリート』では、昔に比べて高校における生徒の力関係というのは変化していて、ジョック至上主義からもうちょっと多様な生徒が人気を博す感じになっているということが描かれていた(『グリー』みたいなドラマがウケる時代だということが作中で言及されていた)。『Love, サイモン』なんかでも、このへんの生徒の人気とか人望の集まり方が多様化していることが描かれていたので、これは最近のアメリカのハイスクール映画のトレンドなんだろうなーと思う。

 話としては大変下品でメチャクチャなよくあるアメリカの高校コメディなのだが、こういうふうに今までのティーン映画をよく消化し、それまでだと男子文化ノリで押し通すだけになりがちだった高校生のバカ騒ぎを女性視点で描くようにしているということで、おバカな映画だがとても成熟した作品である。個人的に大変面白かったのは、オープンリーゲイのクラスメイトであるジョージがカラオケでアラニス・モリセットの"You Oughta Know"を歌うところで、ここはジョージの顔芸から見ているエイミーたちの反応まで、笑える一方でちょっとした表情とか接触を通して高校生同士の人間関係や性的な緊張感を的確に描いており、短いが実に考え抜かれた場面だと思う。ちなみに"You Oughta Know"はアラニスがまだ20歳にならないくらいの時期に『フルハウス』のデイヴ・クーリエと付き合ってた時期のことについて書いたという伝説(アラニス自身は正確なことを言っていないので真偽は定かでは無いが、ファンの間ではもっぱらそういう噂である)がある曲で、ティーンの恋愛のフラストレーションをそのまんま表現したような作品だ。

 ただ、個人的には2カ所、けっこう見ていて居心地が悪いなーと思うところがあった。ひとつめはエイミーが1年のギャップイヤーをとってボツワナにタンポンを作る仕事をしに行くとかいう展開で、なんかこのへんはちょっと「恵まれた白人ミドルクラス家庭のお遊び」っぽい感じがして、気楽なもんだな…と思って見てしまった。さらに居心地が悪かったのはファイン先生(ジェシカ・ウィリアムズ)まわりの展開である。たぶんこの映画で一番痛々しいキャラはファイン先生だろうと思うのだが(この映画に出てくる高校教員はみんな大人になりきれていないキャラなのだが)、ファイン先生が教え子であるテオ(エドゥアルド・フランコ)に誘惑されておそらく関係したことをほのめかす展開がある。ファイン先生がパーティでテオが20歳以上だということを確認する場面があり(テオは何度も留年している)、ファイン先生はたぶん20代半ばだろうし、まあほぼ卒業してるから…という正当化は一応、物語の中でなされているのだが、教員としては見ていてかなり気持ち悪いし痛々しい展開だと思った。