1607年の古いオペラだが、現代風によくまとめている~Nederlandse Reisopera『オルフェオ』(配信)

 Nederlandse Reisoperaの『オルフェオ』を見た。クラウディオ・モンテヴェルディの作品で、1607年初演である。現在も世界各地で上演されている正典的なオペラ演目としては最も古いものらしい。ヘルナン・シュヴァルツマン指揮、モニク・ワーゲマーカース演出で、今年の1月に上演されたものである。

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 お話はオルフェウス伝説にのっとったものである。相思相愛の新妻エウリディーチェ(クリステン・ウィットマー)を亡くしたオルフェオ(サミェエル・ボーデン)が冥界まで妻を探しに行き、なんとかエウリディーチェを生者の世界に帰してもらう約束をとりつけるが、条件である振り向かないという約束を破ったために再び妻を失うというものだ。最後はオルフェオを気の毒に思ったアポロ(ローレンス・キルスビー)がオルフェオを天に連れて行く。

 

 古いオペラだということでどっちかというと祝祭的なマスクに近いような内容だ。全体的に話を歌い上げて合間に踊りもたくさんあるというような感じで、けっこう現在のオペラとは違っている。ちょっと面白おかしいところもあり、オルフェオが一生懸命三途の川の渡し守カロンテを歌で説得したのにカロンテ(アレックス・ローゼン)は聞き入れず、ところがカロンテが眠ってしまったためオルフェオは冥界に突入できたというあたりはたぶん笑うとこなのではと思う。ただ、この演出はあんまりユーモアを強調してはいないと思う。

 薄い紗幕の天幕みたいな囲いを使ったシンプルなセットで、この天幕が上から落ちてきたり、形を変えたりすることで場面の変化が表現される。この紗幕は死と生、悲しみと喜びの薄い境界を象徴するような形でなかなか上手に使われている。終盤でエウリディーチェを再び失ってしまったオルフェオが天幕に阻まれ、苦しみにのたうちまわるところなどは効果的だ。衣装は森のニンフなどを連想させるもので、オルフェオやその仲間たちは肌色に近い色味のうねった布をふんだんに使った、ちょっと木の外側や葉っぱなどを連想させる服を着ている。照明は終盤で幾何的な図形を投影で出すなど、かなり現代風だ。

 全体的に形式に慣れるまではちょっと時間がかかるが、少し見慣れてくるとモダンなビジュアルや演出のおかげもあってあまり違和感なく、けっこう一周回って現代人好みなのじゃないかと思った。古典的なオペラによくある派手な歌い方の壮麗なアリアみたいなものが少なく(長い独唱はあるのだが)、オルフェオがひとりの男として愛のせいで大失敗する様子を歌いながら語る感じで、なんだか現代の不条理演劇みたいに見えるところもある。