早すぎる「中年の危機」…『マティアス&マキシム』(試写、ネタバレ注意)

 グザヴィエ・ドランの新作『マティアス&マキシム』をオンライン試写で見た。

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 数日中にオーストラリアに旅立つことになっているマキシム(グザヴィエ・ドラン)は長年の友人であるマティアス(ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス)を含めた数人で田舎の別荘に行く。そこでひょんなことから別荘を持っているリヴェット(ピア=リュック・フランク)の妹であるエリカ(カミーユ・フェルトン)の自主映画に出演することになるが、そこで2人がキスする場面があり、そのせいで2人の関係に変化が生じる。一方、マキシムは病気の母親との関係が最悪で…

 全体的に、母親との関係とかややこしい恋愛、ある種の解放とトラブルをもたらすものとしての山荘での休暇、人間関係が露わになる場所としてのパーティなど、ドラン的なモチーフをたくさん含んでいる。作風としては前の前の作品である『たかが世界の終わり』や前作『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』にかなり似ており、いろんなものを曖昧にしたままゆっくり話が進むのだが、描写の積み重ね方は以前の作品に比べてけっこうこなれていると思う。そもそもテーマが子どもの頃から友人だった2人の関係の変化で、ある意味ではまだ自分たちは中年だと思っていなかった男たちが早すぎる中年の危機に直面する作品であり、成熟がテーマだと言ってよいかもしれない。また、ドランの作品としては労働とか生活基盤の構築が大きなテーマになっており、マキシムは推薦状が必要で困っているし、マティアスが仕事で接待をする様子がけっこう長い時間を使って描かれている。介護やら仕事やら移住やらで恋愛どころではないはずなのに、さらに恋愛絡みの人間関係にも直面せねばならなくなるというシビアな大人の映画である。

 そういうわけで大人の生活を多角的に描いた成熟した映画だとは思うのだが、面白いかというとちょっとわからない…というか、マキシムの移住というタイムリミットがあるのにわりと進み方がゆっくりで、テンポ感があまりなく、ちょっとエピソードごとの時間配分に難があるような気がする。終盤はだいぶよくなるのだが、とくに中盤あたり、もうちょっとスピーディな編集と展開で見せたほうがよいような気がする。ドランがパーティとか家族の集まりを撮るのが得意なのはわかるのだが、ちょっと手癖で得意分野にこだわりすぎじゃないかと思うところもあった。

 あと、全体的に内面化されたホモフォビアや男らしさへのこだわりに対する批判を含んだ作品ではあるのだが、こういう作品にしては女性であるエリカの描き方があまりにも薄っぺらいように思った。女性陣については、困った母親というのはドランの作品に必ず出てくるテーマなのでそれはいいし、マキシムのおばさんとかはわりといいキャラだと思うのだが、エリカが絵に描いたようなダメなアーティスト志望の若い女性で、ロクに説明もせず刺激的な内容の自主映画にマティアスとマキシムを出そうとしたり、意味のよくわからないコンセプト説明で2人を煙に巻いたりするあたり、あまりにも才能がなさそうで型にはまりすぎていると思った。