かなりわかりやすく変更、クロスジェンダーキャスティングも採用~新国立劇場『尺には尺を』

 新国立劇場演劇研修所第14期生試演会『尺には尺を』を見てきた。子供のためのシェイクスピアシリーズをやっていた山崎清介演出である。

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 舞台に動かせる柱を立てたわりとシンプルなセットである。演出家が「子供のためのシェイクスピア」出身だからなのか、かなり台本に手を入れており、わかりやすくなるよういろんな説明がある(ヴィンセンシオ公爵は修道士に変装している間はかなりはっきりスパイ活動をして、絵日記までつけている)。また、多くの役者は自分の役以外にコロス的な役柄をつとめており、長い独白部分などは一部コロスが一人ずつ言うみたいな演出を採用している…のだが、これはとくにそんなに劇的な効果をあげているとも思えなかったので、若手のみの上演なので独白が難しいからなのかな、とちょっと勘ぐってしまった。

 クロスジェンダーキャスティングで、主な役としてはヴィンセンシオ(星初音)、売春宿の番頭ポンピー(伊藤麗)、ピーター修道士(五十嵐遙佳)が女優、売春宿のおかみオーヴァーダン(濵田千弥)が男優である。ヴィンセンシオが女優というのは初めて見たが(役柄としての性別は男性のまま)、けっこうオーソドックスに、空気の読めないひとりよがりな感じの公爵だったように思う。オーヴァーダンが男優というのはけっこう効いているかもしれず、ドラァグクイーンみたいに派手な雰囲気だがけっこう優しいところもある女将さんで良かった(オーヴァーダンと死刑執行人のアブホーソンは濵田が一人二役で、セックスと死を司っている2人を1人の俳優が演じるというのは悪くない)。

 セックスや暴力についてはかなり抑え気味で穏やかな演出である。オーヴァーダンがかなりジュリエット(加部茜)を優しく気遣っていたり、公爵代理アンジェロ(大西遵)がイザベラ(前田夏実)にセクハラするところがそこまで暴力的でなかったり(むしろアンジェロは狡猾さがなく、けっこうアホっぽく見える)、放蕩者のルーシオ(仁木祥太郎)も最初はイザベラに親切でちょっとアホっぽかったり、あんまり見ていて不愉快な話にならないようにしていると思う。一方、終わりのところではイザベラは明らかにヴィンセンシオの求婚に困っており、後味はあんまり良くない。ここまでの穏やかめな演出はここを際立たせるためだったのかなと思った。