大作を一挙上映~新国立劇場シェイクスピア歴史劇シリーズ映像上映『ヘンリー六世』『リチャード三世』

 新国立劇場シェイクスピア歴史劇シリーズ映像上映で『ヘンリー六世』と『リチャード三世』を見てきた。鵜山仁演出で、だいたい同じ座組で2009年からやってきたプロジェクトの復習編である。ただし全部の映像を見られるわけではなく、けっこうカットしてある。

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 『ヘンリー六世』はそれ以降の史劇シリーズと共通する感じのセットなのだが、『リチャード三世』の美術はかなり味わいが異なっており、赤い砂山みたいなところの真ん中に丸い舞台が設置されているというもので、血なまぐさい一方で不安にも苛まれているリチャードの心象風景を思わせるちょっと象徴的なものだ。全体としては政治劇としての鋭さを際立たせる演出で、現代的で王道のシェイクスピアと言えると思う。やはり同じような座組で継続的に史劇サイクルを上演できるというのは全体に一貫性がもたらされるので、かなり効果的だ。

 『ヘンリー六世』では、ヘンリーよりは王の器と言えるであろうヨーク公リチャード(渡辺徹大河ドラマで演じた西郷隆盛みたいな感じで、凄みと人望を兼ね備えた政治家を演じている)の求心力でヨーク家が保っており、この愛され、畏怖もされている父親が死ぬと3人の息子たちの間がうまくいかなくなるという様子がうまく描かれていた。一方で女性陣も活躍しており、第一部ではフランス軍の乙女ジャンヌ(ソニン)が出てくるし、第一部終盤から登場するヨークの政敵マーガレット(中嶋朋子)はとにかく強烈である。ソニンが後で王太子エドワードとして出てくるのも一人二役の使い方としては効果的で、いずれも敵同士ではあるが若くして非業の死を遂げるキャラクターなので、敵だろうが味方だろうがいくらでも将来のありそうな人々がどんどん無駄死にしていく虚しい戦いの様相を強調できる。

 『リチャード三世』はタイトルロールの岡本健一の本領発揮という感じで、周りから醜男呼ばわりされてもロックスターみたいなカリスマ性のあるリチャードである。2009年の『ヘンリー六世』では若くてちょっと弱々しかった浦井健治が2012年の『リチャード三世』ではかなり頼りがいのありそうなボリングブルックになっていた。『リチャード三世』では衣装のコンセプトがかなり凝っており、エリザベス王妃(那須佐代子)の青いドレスがどんどん色あせていくところとか、終盤のリチャードのちょっと虚勢を張るような王の衣類の着こなし方とか、ファッションが考えられている。狂気に陥らんばかりの呪いを吐くマーガレットは広がったスカートで体が大きく見える服を着ているのに、エリザベス王妃は細身のドレスだというようなキャラクターの表現も良かった。

 『ヘンリー六世』三部作は、とくに最初のほうは撮影・編集があまり慣れていないのか見づらいところがけっこうあったが、中盤くらいから慣れたのか少し良くなったように思えた。ただ、音声については正直、上映するクオリティではないなと思うところも多かった(変な反響みたいなのが入って大変台詞が聞こえづらいところがあった)。『リチャード三世』はけっこう映像のクオリティは良かった。