わりときちんと『十二夜』準拠~宝塚歌劇月組宝塚大劇場公演『WELCOME TO TAKARAZUKA-雪と月と花と-』『ピガール狂騒曲』千秋楽ライブ中継

 宝塚歌劇月組宝塚大劇場公演『WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-』『ピガール狂騒曲』千秋楽ライブ中継を見てきた。映画館でのライブビューイングだが、かなり混雑していた。

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 最初がレビューで坂東玉三郎が監修したというものである。レビューの『WELCOME TO TAKARAZUKA-雪と月と花と-』は雪月花がテーマの日本舞踊演目で、「雪」はヴィヴァルディ『四季』より「冬」、「月」はベートーヴェンの「月光」、「花」はチャイコフスキーくるみ割り人形』の「花のワルツ」にあわせて踊りが披露されるものである。踊り手にひとり、ずいぶん他の団員より年上で、踊り方の雰囲気も違うソロダンサーがいると思ったら、在団64年でこの公演で引退する松本悠里という方だったそうだ。

 『ピガール狂騒曲』は、原田諒によるシェイクスピア十二夜』の翻案である。ベルエポックの時期のムーラン・ルージュが舞台で、ヴァイオラにあたるジャンヌ(珠城りょう)は親の借金を取り立てようとする因業なヤクザ者どもから身を隠すためジャックと名乗ってムーラン・ルージュに就職するが、原作のオーシーノにあたる興行主のシャルル(月城かなと)の芸に対する情熱に感化され、シャルルに恋をするようになる。シャルルは人気作家ウィリー(鳳月杏)の妻で、ウィリーのクローディーヌシリーズのモデル(実はゴーストライター)と目されるガブリエル・コレット(美園さくら)をムーラン・ルージュショーガールにスカウトしようと考え、ジャンヌことジャックにコレットを説得させに行くが、コレットはジャックに恋してしまう。

 シェイクスピアの作品を簡潔に楽しくまとめた喜歌劇である。ジャンヌが男装するジャックはさすがに男役スターの珠城りょうが演じているだけあって、大変颯爽とした美青年に見える。全体的に相当設定を変更しているわりには原作『十二夜』に忠実で、原作にもある史上最弱の決闘のくだりまでちゃんと生かしているし、宝塚の男役が演じていると考えると、最後にジャンヌが女の姿に戻らないという結末もよく似合っているように思われる(原作ではおそらく役者の年齢とか衣装の関係で、ヴァイオラが女の衣装に戻らず終わる)。最近、宝塚の『ヘイズ・コード』という演目を映像で見たのだが、これもけっこうヘイズ・コードの時代のことをよく調べて作っていたので、やたらロマンティックな味付けはあっても、原作とか時代考証の調査については宝塚はずいぶん安定していると思った。

 ただ、原作のオリヴィアにあたる役が実在の人物であるコレットで、コレットバイセクシュアルだったのでジャックが女性のジャンヌだとわかってもとくに気にせずお付き合いしたいのではないか…という気もするのだが、そのへんは全然生かされておらず、コレットはジャック/ジャンヌの生き別れた兄であるヴィクトールとくっついて終わりになる。このへんはまだ宝塚はちょっと保守的なのかと思った。ただ、以前見た『The Lost Glory —美しき幻影— 』(『オセロー』翻案)にもこれにも「これからは女性も才能を生かして活躍しないと」的な台詞が入っていて、このへんは宝塚の現在の客層(昔はたぶんミドルクラスの主婦や娘がメインターゲットだったのではないかと思うが、今は自分で稼いだお金で見に来る成人女性もメインターゲットのひとつだろう)にあわせたアピールなのかなと思った。

 なお、カメラワークなどはけっこうきちんとしていて、開演前の客席を少し映して劇場らしい雰囲気を醸し出すなどの工夫もあり、ライブビューイングとしてはかなり良いと思った。このクオリティの映像で大画面で見られるなら、またライブビューイングで見てみたいと思える。ただ、最後にスターたちが階段を降りてくるところについてはもう少し引きのショットが欲しい。