モノクロの考え抜かれた画面~『異端の鳥』(ネタバレあり)

 『異端の鳥』を見てきた。イェジー・コシンスキの小説の映画化である。

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 第二次世界大戦中、どこかの東欧の国を舞台に、おそらくユダヤ系なのではないかと推測される少年(ペトルコトラール)がすさまじい暴力や虐待を生きのびる様子を描いた作品である。全体にモノクロで極めて台詞が少ない。また、使われている台詞も、どこか東欧の言葉だが全然よくわからないと思って聞いていたら、インタースラーヴィクというスラヴ地域の人々が意思疎通するための一種の人工言語らしい。

 モノクロの考え抜かれた画面が特徴だが、非常にペースやトーンが独特で、ちょっとタルコフスキーっぽい。ほとんど説明がなくどんどん話が進んでいくのだが、たまにものすごく残虐な暴力描写が入ってくる。少年に親がいない理由は最後になってやっとわかり、どうもユダヤ系と思われる(雰囲気からなんとなくそう推測できるだけで、ロマである可能性も少しある)両親が、子供がナチスの手を逃れられるように置いていったらしい。このあたり、何が何だかわからないうちにどんどん状況が変わる戦争の理不尽さを映画の作りそのもので表現していると思った。

 つまらない映画だというわけでは全くないのだが、私はタルコフスキー的な進み方の映画がかなり苦手なので、好みかというとそういうわけでもなかった。全体的に演技はとてもよい。主役はもちろん、ちょっとだけ出てくるベテランのスター俳優たちが大変上手で、ステラン・スカルスガルドが表情だけでいろいろなことを表現できるドイツの軍人を巧みに演じているし、ハーヴェイ・カイテルが優しい心からやったことで少年を不幸のどん底に追いやってしまう気の毒な神父様の役で出ている。