バルカン半島のきなくさい政争を描く~パトリック・スチュアート『マクベス』(配信)

 The Shows Must Go Onのネット配信で『マクベス』を見た。ルパート・グールド演出、パトリック・スチュアート主演で2010年のものである。もともとは2007年にチチェスターで上演したものをテレビ用に翻案したらしい。

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 舞台設定としては1960年代頃のルーマニアチャウシェスク政権あたりをヒントにしているらしく、バルカン半島のきなくさい政治闘争を描いた作品だ。マクベスパトリック・スチュアート)の大きな写真がかかげられたホールとか、晩餐の場面でレコードをかけて民族歌謡みたいなのにあわせてダンスゲームをするところとか、かなり東南ヨーロッパを意識していると思われる。一部はキャヴェンディシュ公爵家の屋敷であり、王党派の居城としてイングランド内戦で包囲されたウェルベック・アビーで撮影されているそうで、つまりイングランドじたいの暴力的な歴史と1960年代のバルカン半島の不安な政情を重ね合わせているのではないかとも思われる。

 全体的にかなり好みの分かれそうな演出だが、既に70歳近かったはずのパトリック・スチュアートが実にエネルギッシュな独裁者をむしろ若々しいくらい生き生きと演じている。最初はまあよくいる勤勉な政治家・軍人タイプだったマクベスが、野心のせいで権力に溺れてどんどん「立派な独裁者」らしくなる様子を見事な台詞回しで表現している。とくにマクベスがサンドイッチを作りながらバンクォー暗殺の計画を練るところは、なんかもうパンを切っているだけで全身から不穏極まりない雰囲気が醸し出されており、こんなに不味そうなサンドイッチも珍しいと思って見ていた。なお、魔女たちが看護師の姿で出てきて、電気ショックみたいなのを使いながら予言をするところはちょっとやりすぎと思う人もいるかもしれないが、私はなかなか面白いのではないかと思った(映像よりもむしろ舞台のほうが映える演出かもしれない)。