綺麗な演目だが…『M』(配信)

 東京バレエ団の『M』を配信で見た。三島由紀夫をテーマにモーリス・ベジャールが作ったバレエ作品である。三島の没後50周年記念に東京文化会館で10月に上演されたものの映像である。

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 直線的に三島の人生を描いているわけではなく、子どもの頃の三島と思われる少年と、その分身と思われるイチ、ニ、サン、シという4人の男を中心に、三島の人生のいろいろな断面や作品、よく出てくるモチーフなどを表現したものである。和風のセットや音楽が出てきたかと思うとエリック・サティなどフランス系のクラシック音楽などを使った洒脱で西洋風な場面になったり、三島のいろいろな側面を表そうとしている。

 全体的に非常に美しく、踊りも美術も衣装もよく考え抜かれた作品なのだが、一方で三島世界というのはこんなにキレイなだけでいいのかなと思うところもある。三島の世界というのは変なブラックユーモアとか非常に俗っぽくしょうもないみじめな感情とかもたくさん存在するものだと思うのだが、こういう緊密なバレエというのは美しすぎてあまりしょうもないことやドタバタした面白おかしさのようなものは表現しにくいのではと思う。とくに最後、桜の花の舞い散る中で少年が自害するという展開になるのだが、直接的に見せないかなり抑えた表現ではあるものの、子どもの純粋さを通して自殺を美化しすぎなのではという気もした。