突如、政治BL~『シカゴ7裁判』

 アーロン・ソーキン監督・脚本の『シカゴ7裁判』をNetflixで見た。

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 1968年にシカゴで行われた民主党大会にあわせてヴェトナム反戦のプロテストを組織した平和運動家7名、通称シカゴ7(最初はブラックパンサーのボビー・シールが入っていたのでシカゴ8だった)が暴動を扇動したとして逮捕され、裁判にかけられた史実をもとにした法廷ものである。アーロン・ソーキンらしくスリリングな会話で展開する緊密な作品だ。シカゴ7の発言を文脈から切り離して悪用したり、さんざん挑発したあげくに被害者であるかのように装ったりする官憲による横暴が無駄のないタッチであまりベタベタせずに描かれており、言論の自由を称えるだけではなく、コンテクストをきちんと認識して事実を評価することの重要性をも指摘する、非常に今日的な作品になっている。

 そういうわけで非常に真面目で政治的な作品であり、たぶんそういうふうに見るべき映画では全くない…と思うのだが、一箇所「なんだこれは、BLでは…」というような描写がある。全体的にシカゴ7の中でもリーダー格と言える存在として描かれているのがトム・ヘイデン(エディ・レッドメイン)とアビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン)なのだが、この2人は全くキャラが異なり、トムはアイルランド系の折り目正しい学生で、真面目に学生組織を率いている正統派の活動家である一方、アビーはもしゃもしゃ頭でラフな服装のユダヤ系のヒッピーっぽい青年で、派手なスタンダップコメディアンみたいな政治パフォーマンスをする(このサシャを見て、『ボヘミアン・ラプソディ』でサシャがフレディ役のやつもけっこう見たかったな…と思った。最初はサシャに打診が来てたはず)。トムとアビーはなかなか裁判の準備でも方針が一致せず、とくにトムはアビーのおどけたところにいろいろ不満がある。しかしながらトムがスピーチの録音で検察に足をすくわれそうになり、窮地に陥った際、アビーが自分はトムが書いたものを全部読んでいると言って救いの手を差し伸べる。ここでタイプの違うアビーとトムが鋭い知性のひらめきで通じ合って火花が散る場面はなんだかえらくセクシーで、個人的に極めてぐっと来てしまった。