『ゲーム・オブ・スローンズ』風な宮廷道化師の反逆~『マンク』

 デヴィッド・フィンチャーの新作『マンク』をNetflixで見た。『市民ケーン』の脚本家のひとりで、クレジットのことでもめていたマンクことハーマン・J・マンキーウィッツに関する映画である。

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 内容の点でも、フラッシュバックを駆使した構造といい、基本的に『市民ケーン』を見たことがない人はお断りというような映画で、映画史をよく知らない若いファンにわかるように撮ろうというような努力は一切していない。その点、極めてエリート主義的、オールドファン向けの映画である。モノクロでいろいろな工夫を用いて昔風の画面を作りあげていることもあり、わりとノスタルジア志向の映画だという印象を受ける。

 内容の点では、なんというか思ったよりも『ゲーム・オブ・スローンズ』っぽい。何しろハースト役がタイウィン・ラニスターことチャールズ・ダンスである。最初はわりとハーストのお屋敷で気に入られており、おどけ者の酔っ払いで「宮廷道化師」などと呼ばれているマンク(ゲイリー・オールドマン)がハーストの愛人であるマリオン・デイヴィス(アマンダ・サイフレッド)と親しくなるあたり、ちょっとティリオン・ラニスターを思い出してしまうところもある。宮廷道化師だったマンクがお屋敷の中で王を笑うのをやめて公然と反旗を翻し、最後に自分の作品として『市民ケーン』を世に出そうとするという展開になっている。

 選挙へのメディアの介入とか、企業による言論の封殺とか、いろいろ大統領選の年にとりあげるべき題材を扱った政治的な映画なのだが、一方でマリオン・デイヴィスの名誉回復という側面もありそうな映画である。マリオン・デイヴィス1920年代に大スターで評価もされている女優だったのだが、『市民ケーン』に登場する、ケーンの妻である才能のないオペラ歌手スーザンと重ね合わされてしまったため、本人もあまり才能がないのにハーストの力で出世したかのようなイメージにつきまとわれるようになってしまった。この映画ではデイヴィスが人間味のある機転も利く女性として描かれており、サイフレッドの好演もあって非常に魅力のある人物に見えるようになっている。一方でマンクの妻サラ(タペンス・ミドルトン)はとおりいっぺんな感じになっており、女性キャラクターの描写という点ではややバランスに欠けるようにも思える。