『冬物語』にひっかけた気の利いた展開~『43年後のアイ・ラヴ・ユー』(ネタバレ注意)

 『43年後のアイ・ラヴ・ユー』をオンライン試写で見た。演劇評論家のクロード(ブルース・ダーン)が、元恋人で引退した名女優であるリリー(カロリーヌ・シロル)がアルツハイマー症になって介護施設に入ったのを知り、自らのアルツハイマー症のフリをして施設に潜入するという物語である。クロードはシェイクスピアやらガーシュウィンやら、いろいろなものを使ってリリーの過去の記憶を呼び起こそうとする。

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 かつての恋があきらめられず、夫のいるリリーにウソをついてまで近づこうとするクロードはちょっとやりすぎなのだが、クロード自身がいろいろ家族に問題を抱えているとか、まだいくらでも演劇論が書けるくらい元気なのに編集者が無能で仕事がないとか、リリーとの恋がかなり不完全燃焼で終わったとか、いろいろ丁寧な設定があるので、「まあ困ったおじいちゃんだけど許してあげるか」くらいには同情できる感じになっている。失われた男女の愛が長い期間を経て蘇る『冬物語』が重要な作品として登場しており、死んだと思われていたハーマイオニーの肖像が動き出すのと同様、この作品をきっかけにリリーの記憶が戻ってくるという、なかなかお芝居好きにはたまらない気の利いた展開が最後に準備されている。ブルース・ダーンももう80過ぎなのにお元気で達者な演技をしているし、この手の老人の病気を扱ったものとしてはなかなか良いのではないかと思った。