いわゆる「キャバレー・キンキーブーツ問題」~『チョコレートドーナツ』

 谷賢一脚本、宮本亜門演出の『チョコレートドーナツ』を見てきた。アラン・カミング主演の同名映画の舞台化である。新型コロナウイルスの関係で最初は上演ができず、やっと幕が開いた作品だ。

チョコレートドーナツ(字幕版)

チョコレートドーナツ(字幕版)

  • 発売日: 2014/12/02
  • メディア: Prime Video
 

  ドラァグクイーンのルディ(東山紀之)は検察官のポール(谷原章介)と出会うが、ほぼ同時に隣家の息子でネグレクトを受けていると覚しきダウン症のマルコ(高橋永)を保護する。薬物中毒の母が逮捕されてしまったマルコを施設に預けたくないと思ったルディは、恋人となったポールとともにマルコの養親になることを目指すが、世間の目は厳しく、法律も味方についてくれない。

 原作の哀愁に満ちた雰囲気を壊さないよう、それでも舞台らしくしっかりまとめた作品である。マルコ役にはダウン症の子役を(ダブルキャストなのだが、私が見た回の高橋永は大変上手だった)、アフリカ系の弁護士役にはガーナ系の矢野デイビットをあてるなど、キャスティングも日本の舞台としては非常に頑張っている。主演の2人は実に達者で、役柄によくあっている。

 全体的には非常に満足のいく良い舞台だったのだが、ひとつ思ったのが、これは私が考えるいわゆる「キャバレー・キンキーブーツ問題」があるな…ということだ。『キャバレー』のサリーとか『キンキーブーツ』のローラみたいな、「場末のエンターテイナー」を主役とする舞台劇の有名作というのはいくつかあるのだが、この手の役柄にはたいてい非常にちゃんとした役者をあてて、この人物が自分のショーで歌ったり踊ったりする場面では演出家も力を入れるので、どう見ても「場末」に見えない舞台になってしまうことがある。『チョコレートドーナツ』もそうで、東山ルディは大変スター性のあるドラァグクイーンなので、ショーの場面にはあまり場末のゲイクラブ感がない。ただ、ルディはこの後歌手としてもっと大きいクラブに出るくらいは才能があるという設定なので、『キャバレー』や『キンキーブーツ』に比べると華があっても良いのだが、まあとにかく東山ルディは華がありすぎる。最初の筋骨隆々の足を見せて踊るドラァグショーから、最後のしっとりした歌唱シーンまで、かなり気合いの入ったステージを見せてくれる。