正攻法の豪華なヘンデル~『ロデリンダ』(配信)

  METの配信でヘンデルロデリンダ』を見た。2011年に上演されたものの映像である。スティーヴン・ワズワースが演出、ハリー・ビケットが指揮をつとめている。

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 ロデリンダルネ・フレミング)はロンバルディアとミラノの王妃だが、夫のベルタリド(アンドレアス・ショル)は廃位させられておそらく死亡したと思われており、一人息子のフラヴィオ(モリッツ・リン)を抱えて簒奪者グリモアルド(ジョセフ・カイザー)からしつこく求婚されている。ベルタリドの妹エドウィジェ(ステファニー・ブライス)はかつての恋人グリモアルドのことが忘れられないが、グリモアルドはエドウィジェに未練があるものの、狡猾な家臣ガリバルド(シェンヤン)に示唆され、ロデリンダを狙って自分の地位を強化しようとしている。しかしながらベルタリドは実際は生きており、自分が死んだという噂を流して世間を油断させた後、親友で忠臣であるウヌルフォ(イェスティン・デイヴィス)の手引きで妻と再会しようとしていた。

 正攻法のバロックオペラらしい演出で、セットや衣装は豪華な時代がかったものである。セットはものすごく凝っていて、とくに第2幕の大きな図書室のセットは立派なもので、登場人物が上の階にのぼって本をとるなど、階層を使っていろいろ動きをつけている。展開も派手で、途中2箇所くらいビックリするようなところがある。第2幕でロデリンダグリモアルドに対して、自分と結婚したいならここで息子のフラヴィオを殺せととんでもないハッタリをかますところとか、第3幕でウヌルフォが勘違いでいきなり牢獄にいるベルタリドに刺されてしまうのに「とりあえずケガは我慢して逃げましょう」みたいな雰囲気で逃亡してしまうところとか、バロックオペラっぽい唐突で劇的な展開である。

 

 歌手陣の歌や演技はとてもよく、ルネ・フレミングは健気なお母さんをうまく演じているし、ショルとデイヴィス、カウンターテナーが2人出てきていかにもヘンデルっぽい歌をたくさん聴かせてくれる。個人的にはグリモアルドがなかなか面白いキャラクターだと思った…というのも、このグリモアルドは簒奪者にしてはどうも抜けているというか残虐になりきれないところがあり、ロデリンダに子供を殺せと言われるとびびりまくってしまったり、エドウィジェに未練たらたらなのに健気なロデリンダの姿を見て欲得づくだけではなく心惹かれてしまったり、わりと人間味のある小悪党みたいな役柄である。ガリバルド役のシェンヤンや、台詞がない子役のリンもとても上手で、楽しめる上演だった。