すっきりしない現実的な終わり方~『ザ・空気 ver. 3 そして彼は去った…』

 東京芸術劇場で永井愛の新作『ザ・空気 ver. 3 そして彼は去った…』を見てきた。これまで『ザ・空気』シリーズを見ておらず、初めてである。

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 テレビ局が舞台で、時期はほぼ今、新型コロナウイルスが流行っている最中という設定である。政府に対して批判的でアーカイヴ室に飛ばされることになったチーフプロデューサーの星野(神野三鈴)の最後の担当番組に出演するため、コメンテイターの横松(佐藤B作)がやってくる。ところが横松は検温で熱が37.4度あり、出演できるかできないかとかでいろいろ問題が生じるが…

 1時間45分くらいで終わるコンパクトな作品である。2階部分が放送ブースになっており、今よくやられているリモート打ち合わせなどを1階と2階の部分を使って表現している。ひとつのセットに少し手を入れて変化させる形で、序盤の会議室のセットはあまりリアリティがないのだが、このあたりはあえてやっているのかもしれない。

 今の政局をふんだんに取り入れた、というかべったり張り付いて描いたような作品である。新政権が発足して数ヶ月たったのを評価するとかいう番組を放送する設定で、名前は出ていないが明らかに菅政権だ。出演するのは昔は反骨のジャーナリストだったが今は内閣からお金をもらって御用評論家に成り下がっている横松と、田嶋陽子先生っぽい感じのフェミニストの先生(声のみ)である。星野が政権批判でアーカイヴ室に飛ばされるというのはたぶん私の同僚の永田浩三先生からヒントを得ているのではないかと思われる。こういう現実にべったり張り付いた展開にいろいろ人間関係を絡めて、政権を揺るがすスキャンダルが暴露されそうになるものの、最後は結局それができず、横松の改心は無駄になり、星野が同調圧力に屈して、すっきりしない形で終わってしまう…という結末で、今の「空気」を考えると非常にリアルな作品だと思った。たぶんあと数年たつと意味がよくわからなくなる台本かもしれないと思うのだが、今これをやることに大変、意義があると思う。