犬以外に救いがない~福島三部作第二部『1986年:メビウスの輪』(配信)

 福島三部作第二部『1986年:メビウスの輪』を配信で見た。

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 視点人物、というか視点動物として穂積家の老犬であるモモ(百花亜希)が出てくるのだが、モモは最初のところで死んでしまい、霊的な存在としてその後の展開を見守るようになる。お話は第一部の主人公だった孝の弟で、かつて反原発運動のリーダーだった穂積忠(岸田研二)の政治家としてのキャリアを追うものである。かつては純粋に良心に従って原発に反対していた忠が、双葉の経済が完全に原発におんぶにだっこになってしまっている現状を受け入れ、周りのすすめで原発反対を引っ込めて町長に立候補し、やがて原発は安全だと宣伝するようになるまでを描くものである。モモの霊が出てくてちょっとハイデッガー哲学をまじえながらコメントをするホラーファンタジー風な枠とか、途中で「サマータイム・ブルース」に合わせて「原発は安全です!」とみんなが歌い踊るミュージカル風な場面とか、演出としてはかなり演劇的でシュールなのだが、地方政治のあり方の描写自体はめちゃくちゃにリアルである。いろいろ笑えるところはあるのだが、その後に起こることを知っているとまったくいたたまれない。モモが可愛い以外にほぼ救いがない展開だが、それでも抜群にエネルギッシュで面白い。