イモが活躍するブラックな諷刺コメディ~『喜劇「人類館」』(配信)

 『喜劇「人類館」』を配信で見た。知念正真作の1976年の作品で、岸田賞もとっているものである。上江洲朝男演出で、無観客上演になってしまったものを21日まで無料配信している。ダブルキャストで複数バージョンがあり、とりあえず第一演を見てみた。

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 有名な人類館事件(1903年、大阪の博覧会で沖縄などいくつかの地域の人々の暮らしが見世物的に展示されたことに起因する事件)を中心に、第二次世界大戦基地問題まで、沖縄に対する差別問題を扱ったシュールなブラックコメディである。沖縄のアイデンティティと差別という大変深刻な内容を扱っている一方、生活感あふれるイモに始まりイモに終わるコミカルな作りになっている。沖縄の人たちがイモを食ってるとかいうようなことを内地人が差別的に言うところがあるのだが、こういうそれ自体は何の問題になるのかよくわからないような食物文化の違いを偏見に結びつけて「遅れている」とするというのは、南太平洋の島々とかアイルランドとかに対する差別でもありそうなことだ(私はイモ類が大好きなので、このイモの巧みな使い方がとても気になった)。かなりローカルな話だが差別がどう作られるかという問題全般につながっていると思った。

 ただ、ちょっと思ったのは、こういうイモのくだりみたいな生き生きしたところがある一方、少し図式的に見えるところもあるのではないかということだ。70年代の作品だからかもしれないが、性暴力の描き方などはよくある感じで、女性が無力な被害者として見えやすい描き方になっているような気がする。あと、以下の伊藤陽寿先生のツイッタースレッドを見てから考えると、そもそも人類館事件においては沖縄の人がアイヌなど他の民族とは自分たちは違うのだという偏見を持っていたことが背景にあるということなのだが、こういう複雑かつ重層化された差別をやや単純化しているようにも思える。

  なお、せっかく配信にするならもうちょっと音声を良くしてほしいというのは思った。ただでさえ沖縄の言葉が出てきていて難しいので、予算の制限があるのかもしれないが、もう少し音をクリアに撮ってほしい。あと、正直、沖縄の言葉が大変難しくてほとんどわからないところもあったので、ここは配信の強みで字幕をつけたほうがいいのじゃないかと思った。共通語だけじゃなく、英語もあるともっと人目に触れるようになると思う。