これ、舞台ではないよね?~『エステラ・スクルージ』(配信)

  ミュージカル『エステラ・スクルージ』を有料配信で見た。ジョン・ケアード演出の配信ミュージカルで、『クリスマス・キャロル』の翻案ものである。

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 基本は『クリスマス・キャロル』だが、他にもいろんなディケンズ作品がごちゃまぜにしてある。ヒロインである守銭奴の若き女性企業家エステラ・スクルージ(ベッツィ)がクリスマスに差し押さえ業務で故郷であるオハイオ州ピクウィックに戻り、そこで三人のクリスマスのゴースト(ご先祖のエベニーザ・スクルージを含む)に会って改心するまでを描くのがメインプロットである。この他にエステラの少女時代のボーイフレンドで差し押さえ対象であるホテル兼シェルターのハートハウスを軽視しているピップ・ニックルビー(クリフトン・ダンカン)のお話やら、エステラのおばであるマーラ・ハヴィシャム(キャロリー・カルメロ)やらの話がからんでくる。

 新型コロナウイルス感染症が流行する中、役者をひとりずつ別撮りして作ったというもので、背景などがほぼ合成である(最後に撮影風景の紹介もある)。技術的には大変難しいことをやっていると思われる。別撮りとは思えないくらい演技などはナチュラルだが、見た目は子供向けの人形劇に人が入って動いているみたいな感じですごくファンタジーっぽく、まったく舞台芸術らしくはない。クリスマスのテレビ映画という感じである。

 全体的には気軽に見られる楽しいホリデー映画という感じで、技術的にはすごいし新型コロナの中で新しいやり方で新作を作ろうとしている点では野心的で評価できるのだが、それ以上にすごくよくできているとかいうわけではないと思う。ただ、エステラ・スクルージが女性になっているのにあんまりミソジニーっぽくなく綺麗にまとめていたり、ノンバイナリの登場人物であるスマイク(エム・グロスランド、『ニコラス・ニックルビー』の登場人物に基づく)が活躍したりするあたりはけっこう良い。いろんな作品からアクの強いキャラクターが出てくるが、ディケンズの作品というのは変わり者が右往左往するのが特徴なので、各作品の要素をごっちゃにしてもキャラさえきちんと立てればけっこう成立するんだなと思った。