あまり一貫性がなく、ちょっと無理が…ニック・エヴァンズ演出『ロミオとジュリエット』(配信)

 ニック・エヴァンズ演出、メトカーフ・ゴードン・プロダクションの『ロミオとジュリエット』を配信で見た。

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 先日の『エステラ・スクルージ』同様、グリーンバックでほぼ役者を別撮りし、後で合成したものである。しかしながら、全体的にファンタジー風味で美術については一貫性があった『エステラ・スクルージ』に比べると背景のデザインなどにけっこう疑問がある。かつては劇場が栄えていたが今は劇場が廃業してしまったロンドンのような街が舞台で、登場人物は全員現代の衣装を着ている。冒頭部分は劇場を舞台にしてやっているのだが、この劇場が全体的にあんまり廃れている感じがなく、勝手に若者たちが入って遊んでいるのがちょっと不自然に感じられる。さらに途中からフツーに住宅とか街路になるので、最初に劇場が出てきた意味はあまり無いんじゃないかと思った。終盤、ジュリエットのお墓の場面はまたミョーに劇場っぽくなるのだが、これもそんなに効果はあげていない。また、舞踏会の場面では散発的に登場人物がマスクをつけたりしているのだが、ポストコロナの状況と仮面舞踏会の設定を引っかけるなら全員手の込んだマスクをつけるべきだと思うのにそうなっておらず、「なんか最近のものを取り入れました」で終わってしまっている。全部CGで合成するのが大変だというのはわかるのだが、全体的に衣装とか美術のチョイスに一貫性が無い。新型コロナウイルス感染症の流行を演出に取り入れようとしたのだろうが、少なくとも私は「半端に劇場が廃れたロンドン」とかを見たいわけではない。劇場が懐かしいんだから、劇場設定でやるなら全部劇場でやってほしい。

 役者陣の演技はそう悪くないのだが、たまに妙にタイミングが不自然だったり、対話に親密感がなかったりして、これはやっぱり別撮りで役者陣が超やりにくかったのだろうなと思う。あと、別撮りのせいで殺陣に圧倒的に迫力が無く、突っ立ってる人をただ刺すみたいになっている。原作だと、ロミオのティボルト殺害及びパリス殺害はもみ合っているうちに致命傷に…みたいな感じなので、これは演出上も実によろしくなく、ロミオはやたら危険な人、ティボルトやパリスはちょっと鈍い人みたいに見えてしまう。新型コロナウイルス流行中にこういうことをやろうというやる気はすごいと思うが、まあ無理にやらなくても…と思ってしまった。