死ぬならいいのか?~『ベイビーティース』(ネタバレあり)

 『ベイビーティース』を見てきた。

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 シドニーに住む16歳のミラ(イライザ・スキャンレン)がヒロインである。ミラはガンを抱えて闘病しているが、ひょんなことから年上のワイルドな不良少年モーゼス(トビー・ウォレス)に出会う。両親の反対にもかかわらずモーゼスに惹かれるミラだったが、病状はどんどん悪化していく。

 世間では「単なる難病ものではない」という触れ込みなのだが、個人的な好みとして全く面白いと思えなかった。まあたしかにふつうの難病映画とはわりとアプローチが違うのだが、正直なところ、私には『きっと、星のせいじゃない』とかとたいした違いがあるようには思えない。というのも、ミラが惹かれるモーゼスは20歳を過ぎていて、ドラッグやってるし、ミラの家からいろんなものを盗もうとするなど、まあとにかく無責任でワイルドで魅力的である。我々(といってもたぶん全世界で推定10人くらいしかいないと思うが)はこういう無責任でワイルドで抗いがたく魅力的な男性に人生をメチャクチャにされないように頑張って生きているものだと思うし、同じくスキャンレンが出ていた『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』はそういう話だったと思うのだが、これは「どうせ死ぬんだし、これからメチャクチャにされる人生はないんだから、こういうタイプの男と深い仲になってもいいじゃないか」みたいな話だ。まあそれはそれで極めて理性的な選択だと思うのだが、見ていて自分がそういう話を面白いと思えるかというとそういうわけではなかった。

 さらにどうも引っかかってしまうところが2つくらいある。ひとつめはけっこう音楽が重要なポイントになっているのに、あんまりそれがちゃんと生きていないことだ。ミラのヴァイオリンが急に上手になったところで先生のギドンが恋でもしたのかと言うのだが、いやいや恋をしたくらいでそんな上手くなるわけねーだろ練習しなきゃ…と思ったし、最後に合奏をしたがっていなかった母アナ(エシー・デイヴィス)がようやく合奏に同意するところも、なんだか演奏としてあんまりパッとしなかったと思う。2つめはミラのモーゼスに対する態度で、一方では苦しんで死にたくないので自分を殺せとモーゼスに頼んだりする一方、父のヘンリー(ベン・メンデルソーン)にモーゼスをよろしくとお願いしたりしていて、イマイチ、恋人のモーゼスを対等な自立した人格として扱っていないように見える。やたら大人ぶるかと思えば無責任に自分を殺せと頼んだりするあたりがフツーのティーンエイジャーらしいのかもしれないが、あんまりロマンティックな恋愛ものとして真面目に受け取れる展開ではないと思った。まあ、この作品じたいがリアル志向でやや諷刺も入ったものになっているので、狙いは達しているのかもしれないが…

 

きっと、星のせいじゃない。(字幕版)

きっと、星のせいじゃない。(字幕版)

  • 発売日: 2015/07/15
  • メディア: Prime Video