正統派女子スポ根映画~『MISS ミス・フランスになりたい!』(ネタバレあり)

 『MISS ミス・フランスになりたい!』を見た。

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 主人公であるアレックス(アレクサンドル・ヴェテール)は性自認は男性なのだが、子供の頃からミス・フランスのコンテストに出たいと思っていた(おそらく今風の言い方で言うと「ジェンダークィア」に近いと思う)。子供の頃の夢を叶えてボクサーとして成功したエリアス(クエンティン・フォーレ)に再会したことをきっかけに、ミス・フランスのコンテストに出る夢を叶えるべく努力することに決める。しかしながらアレックスは男性であるだけではなく貧しいワーキングクラスの若者で、出場にはいろいろな困難が立ちはだかるが…

 主演のヴェテールが大変上手で、どんどん美しくなっていく一方、壁にもぶつかるアレックスを魅力的に演じている。この作品のいいところは、アレックスが抱えている問題がジェンダー一辺倒にはなっていないことだ。ジェンダーはもちろん中心的テーマなのだが、他にも経済的・階級的な問題とか、家族関係などが障壁になってくる。人間の人生にとってジェンダーはとても重要だが、それだけで終わるわけではないという多面的な描き方になっており、アレックスを含めた登場人物が厚みのある人物に見える。アレックスは子供の頃に両親を亡くして以来、里子に出されるなど不幸な子供時代を送っていたが、今は家主で口は悪いが母子同然の仲であるヨランダ(イザベル・ナンティ )やハウスメイトたちとともに安心できる環境で暮らしている。今は少しマシとはいえとても貧しく、これまでの暮らしぶりからしても、他の経済的に恵まれていたり、高学歴だったりするコンテスト参加者に比べるとだいぶ不利なところがある。さらに養母のヨランダはそもそもミスコンが性差別的なイベントであるのを気にしていてアレックスの出場をあまりよく思っていないし、他の家族もアレックスがだんだん有名になっていく様子に戸惑って関係が悪化するなど、いろいろなトラブルが降りかかってくる。それを全部克服していくところが多面的に描かれている。

 ミスコンに批判的なヨランダがこっそりアレックスのスクラップブックを作っていた…とかいうあたり、ちょっと定型的だなと思ったのだが、最後にミスコンで勝つことそのものをやんわり相対化するような展開がある。よく考えてみると、この映画は途中でアレックスがエリアスに自信を得るためのイメージトレーニングの訓練を受けるなど、けっこうスポ根路線だ。さらに最後、アレックスがコンテストで勝つ以外の目的を見つけるというあたり、最後に主人公チームが優勝しないという点でまさに女子スポーツ映画である(『プリティ・リーグ』とか『チアーズ!』とか、女性スポーツ映画って最後に勝たないものが多い)。