西部劇に複雑な音楽~メトロポリタンオペラ『西部の娘』(配信)

 メトロポリタンオペラの配信で『西部の娘』を見た。2018年の上演で、マルコ・アルミリアート指揮、ジャンカルロ・デル・モナコ演出のものである。プッチーニの作品だが、話は19世紀半ばの西部を舞台に酒場の女主人であるミニー(エヴァ=マリア・ヴェストブルック)と盗賊であるラメレス(ヨナス・カウフマン、別名ディック)のロマンスを描くもので、完全に西部劇だ。 

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 初心者にはけっこうビックリするところの多いオペラだった。イタリア語の西部劇というのにまずはちょっと面食らってしまうところもあるのだが、まあマカロニウェスタンみたいなもんだと思って見れば良い。お話としては西部劇というよりもけっこう正統派のオペラっぽいロマンスものなのだが、やや緩めでごたごたした味付けがない分、お話としては現代向けでわかりやすいのかもしれない。途中でウェルズ・ファーゴで働いているという登場人物が出てきて、この頃からウェルズ・ファーゴってあったのか…とちょっとビックリした。

 ただ、このけっこうシンプルで緩めの西部劇に、プッチーニにしてはけっこう現代風で少し複雑な音楽がつけられており、最初はそこに慣れるまでちょっと時間がかかる(慣れてくればドラマティックな盛り上がりにあわせて楽しめる)。しかも第一幕の最後に、後に大ヒットとなる『オペラ座の怪人』の"The Music of the Night"にソックリの曲がある。これは似すぎているということで、『オペラ座の怪人』を作曲したロイド・ウェバー側が訴えられるとかなんとかいうような法的問題になったらしい。

 さらにこの作品、始まり方がジョン・ミリントン・シングの『西の国のプレイボーイ』にけっこう似ている。酒場を経営している頼れるヒロインとしつこい求婚者、さらに流れ者の色男…というのは『西の国のプレイボーイ』にそっくりである。調べたところこのオペラの原作が1905年、『西の国のプレイボーイ』が1907年、オペラが1910年だそうで、シングがこの話を知っていたのか、それともこの時期こういう話が流行っていたのかもしれない。

 亡きルース・ベイダー・ギンズバーグは大変なオペラファンだったのだが、この作品がお気に入りだったらしい。たしかにヒロインのミニーはしっかりした女性である。さらにヨーロッパ風のオペラのヒロインをかなりちゃんとアメリカ女性に移し替えてやっているあたり、アメリカ人のフェミニストでかつオペラファンというギンズバーグの趣味にピッタリだったのかもしれない。