西部劇と#metoo~シェイクスピア・バイ・ザ・シー『尺には尺を』(配信)

 シェイクスピア・バイ・ザ・シー(ロサンゼルス)の『尺には尺を』を配信で見た。パトリック・ヴェスト演出で、ロックダウンのため延期になっていたものである。やっと上演できるようになったのに、ライヴ配信中に中継が落ちて後でアーカイヴ配信になるなど、なかなかトラブル続きのプロダクションだった。

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 舞台はウィーンということになっているのだが、このプロダクションの設定は完全に西部劇である。サルーンのあるセットに19世紀風な衣装をまとった人々が登場し、音楽もこれ見よがしに西部劇っぽいものを使っている。公爵ヴィンセンシオ(パトリック・ヴェスト)は町のボス、アンジェロー(ジョナサン・フィッシャー)はいきなり保安官になったせいで権力をうまく使えず、腐敗してしまう真面目人間みたいな感じである。

 この設定はけっこう面白い。おそらく現代人にとっては近世のウィーンよりもアメリカの西部劇のほうが、腐敗した保安官とか、妙な内輪のコードで動いている町とかが出てくる様子が受け入れやすいのではないかと思われる。ちょっとコミカルな売春宿や自立心の強い女性なども西部劇ではお馴染みだろうし、『尺には尺を』を現代人にわかりやすくするにはとても良い設定だ。これに現代風な#metoo(たぶん#metooが始まって以降の『尺には尺を』は全てこの運動を意識していると思うのだが)をからめてイザベラ(メリッサ・ブーイー)のしっかりした性格を引き立てており、なかなか面白い上演になっている。西部劇になっているせいで、最後に公爵がいきなりイザベラに求婚するところも、保安官が気の強い西部の娘に惚れたみたいな感じで、喜劇的で受け入れやすくなっていると思う。

 撮影は前回シェイクスピア・バイ・ザ・シーがやっていた『タイタス・アンドロニカス』よりは良くなっているように思うが、まだ改善の余地はありそうだと思う。稽古不足な感じがした前回よりもずっと面白く、延期やらなんやらで大変だったのにすごく頑張っている劇団だと思った。こういうふうに劇団が新型コロナの配信にどんどん対応していく様子を見るのも興味深い。