セクシースヌーピーとライナスの毛布~『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』

 シアタークリエで『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』を見てきた。チャールズ・シュルツの『ピーナッツ』を原作とするミュージカルで、訳詞・演出は小林香である。

www.tohostage.com

 全体を通した物語があるわけではなく、原作のコミックをそのまんまミュージカルにして小さいエピソードがどんどん出てくるというような作りである。コミックがそのまま動き出したみたいな作りで、カラーの漫画のコマみたいなセットで6人(そのうち1名は犬)のキャラクターが動く。チャーリー・ブラウン花村想太)を中心にいろんな出来事が起こった後、最後はみんなで幸せに関する歌を歌って、ほのぼの終わる。

 というわけで、全体にコミカルでのどかで子供も見られる楽しい作品なのだが、私はかなりこのミュージカルの意図に外れた見方をしてしまった。『ピーナッツ』の舞台化ということでもちろんスヌーピーが出てくるわけだが、このスヌーピー、わりと着ぐるみが控えめで人間っぽく、しかも中の人は中川晃教である。人生についていろいろ悩んでいる子供たちに比べるとスヌーピーは余裕があり、夢想好きではあるがなかなかリラックスした雰囲気で、さらに子供っぽい歌や動きをわざとやっている他のキャラクターに比べると大人っぽい。このため、マイペースなスヌーピーだけやたらセクシーに見える。別にこのミュージカルは犬のセクシーさを堪能する作品とかではないと思うし、なんかそういう見方はおかしいとも思うのだが、まあ全体の作りと演者のせいでそうなるのもしょうがない気がする。

 もう1つ気になったのはライナス(岡宮来夢)である。ライナスは有名な安心毛布を持ったまんま歌ったり踊ったりするのでなかなか大変そうな役なのだが、とにかく他の子より賢い。第一幕の最後の『ピーター・ラビット』の感想文を書くくだりなど、このライナスが指導学生だったら絶対に指導が楽だと思ってしまった。しかしそんな賢いライナスは毛布を手放せない…のだが、実は毛布こそライナスの賢さのポイントなのじゃないかと思う。ライナスは毛布を持ち歩くと自分がバカにされるということはわかっており、やめようとするがやめられない。それは見栄をはって毛布なしで暮らすよりも、見栄を捨てて毛布と暮らしたほうが安心して自分らしくいられるからだ。ライナスはたぶん、自分らしくいるためには自分の弱いところを人にさらけだし、弱みを持ち歩く覚悟が要るということを薄々わかっている。この、弱みを常に持って歩く覚悟があるという点はライナスの賢明さの大きな要因なんじゃないかと思う。